内田:日本では法的な問題もありますね。

岩田:はい。ですので、戒厳令的なロックダウンは難しいですが、新型インフルエンザ特措法によって外出を控える要請を出すのが現実的だと思います。

――対談から4日後の4月7日夕方、東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡の各都府県に緊急事態宣言が発令され、住民の外出自粛要請などが現実化した。

岩田:では、なぜ外出を規制する必要があるのかをご説明します。感染症は細菌やウイルスなどの微生物が、体の中に入って病気を起こします。そして、その微生物が他の人に感染することで病気が広がっていきます。つまり、感染症には必ず感染経路が、すなわち「道」があるわけです。道がない感染症は存在しません。

内田:コロナウイルスの場合は?

岩田:コロナは、感染者のくしゃみや咳で飛んでいく飛沫が「道」に当たります。飛沫が飛ぶ距離は約2m。それを吸い込むことで、感染します。もう一つの経路は「接触」です。どこかに付着した飛沫を手で触り、そのウイルスがついた手指が口や鼻などの粘膜に触れることで感染します。

 つまり、その二つの感染経路を遮断すれば、コロナには感染しません。ただそれを遮断するのが難しい。皆さんがつけているマスクは、自分の咳の飛沫の飛散を防ぐ効果はありますが、残念なことに、横や下の隙間から、空気中の微細な飛沫が入り込んでしまう。感染ブロックにはあまり役に立たないのが現実です。「布マスク」が流行語のようになっているそうですけど、綿の繊維は隙間だらけなので、ウイルスをブロックできません。

内田:なるほど。

岩田:マスクとともに、感染拡大を防ぐためによく言われる「ソーシャル・ディスタンシング」は、他人と2mの間隔を空けることで飛沫を浴びないようにするという対処法です。東京都が求めている「3密を避ける」というのも、飛沫の曝露を防ぐことが目的です。しかし、現実的にソーシャル・ディスタンスを保って生活するのは困難です。電車やバスに乗れば周囲に人がたくさんいますし、街を歩いていても2mの距離を常に保つのは難しい。

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ロックダウンと言い続けたワケ