そこで各国で行われているのがロックダウンです。家から外に出ず、人に会わなければ、原理的にウイルスに感染することも、他人に感染させることも絶対起こりません。

 新型コロナには現在、治療法もワクチンもない。対処法が存在しないので、感染しないことが一番なんです。そのためにはロックダウンのような制限を加えるしかない。東京の感染者は3人、17人、40人、97人……と日を追うごとに指数関数的に増えています。この増え方が危ない。ニューヨークもイタリアも当初は今の東京と同じような増え方でした。ですが、すぐに1日で1千人、2千人と患者が増えて、制御できなくなりました。

――国内で確認された感染者数は、4月9日23時時点で5448人、死者は108人(クルーズ船を除く)。うち、東京の感染者数は1519人にのぼる。

岩田:新型コロナの特徴は「数のウイルス」であることです。5人や10人が感染してもどうってことありません。ほとんどは自然に治りますが、これが1000人、1万人になると抑えられなくなります。昨日(4月2日)、東京で97人の感染者が出たと報道されました。これは夜空の星の光が何年もかかって地球に届くのと同じように、現在より前の時点でウイルスに感染した人の数を表しています。新型コロナは潜伏期がだいたい5日間、発症して病院で感染がわかるまで4~5日なので、およそ「10日前」の感染の姿を見ているわけです。

 ということは、今日東京をロックダウンなどの制限を加えても、その効果が現れるのは10日後ということになります。その間は、患者が増え続けるのを傍観するしかありません。しかし、規制を1日延ばせば、その時間分、指数関数的な増加を続けることになる。手がつけられなくなる前にロックダウンを判断するなら、すぐにでもやらなければならないというのが、僕がずっとロックダウンと言い続けてきた理由です。

内田:デメリットもありますね。

岩田:はい。もちろん大きなデメリットがあります。外出を規制することで社会生活がある程度ストップするわけですから、経済的な損失は大きいし、お店を営業している人にとっては死活問題です。一般の人も快適な生活が営めなくなります。失うものは多くありますが、「東京の人口に比べて97人はたいしたことない」と考えて、あと1週間先延ばしにしたら、感染者がとんでもない数に増える可能性があります。そのときになって例えばロックダウンしたとしても、手遅れなんです。その状態では、さらに人々の動きを厳格に規制する激しいものとならざる得ません。

(文・構成/大越 裕)

※クルーズ船の内情やポスト・コロナ期など、岩田健太郎医師と内田樹氏の対談の続きは、4月13日(月)発売の週刊誌「AERA 4月20日号」で詳報する。