取材を通し、3人の考え方は変わっていった。

 原発賛成派だった矢座さんは、福島で原発事故の被災者から話を聞くうちに「原発は必要ないのかもしれない」と葛藤するようになり、取材をすればするほど賛成か反対か「わからなくなった」という。

 反対派だった羽仁さんは、東電への取材で、日本の電力不足を補うには原発が必要だという話を聞いたことで、賛成でも反対でもない「中立派」になった。

 もともと中立派で原発にあまり関心がなかったという土屋さんは、福島で廃炉の状況を伝える活動をしている元東電社員から話を聞き、「反対」の意見も聞こうと思うようになった。

 1年近くかけ完成した映画は、昨年末のNPO法人映画甲子園が主催した「高校生のためのeiga worldcup2019」で最優秀作品賞に選ばれた。

 審査員の一人は、「時間と費用と知性を結集した今までにはないドキュメンタリー」と絶賛。別の審査員は「現代の世界が抱える大きな問題を正面切って精力的に取材した」と評した。

 矢座さんは今、別のクラスメートと一緒に2作目の原発映画に取りかかっている。「前作では伝え切れなかったものがあった」からだ。

 クラウドファンディングで約54万円を集め、マイクや三脚など機材を買った。先日は原発が立地する新潟県柏崎市に行き、吹雪の中、カメラを回したと楽しそうに話す。

「10代の若年層に、原発やエネルギー問題は僕たち一人一人が考えなくてはいけない問題だと、訴えたい」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年3月9日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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