昨季までコーチだった樋口美穂子に振り付けも依頼していた宇野は、振付師と英語で深い会話をする機会が少なかった。そのため今季のプログラムの振り付けも、見よう見まねで動きを覚えただけで、ウィルソンの「振り付けの意図やテーマ」などが伝わりきっていなかったという。

 ところが環境が変わった。ランビエルのチームには英語が流ちょうな島田高志郎がいて、サポートしてくれる。親日家のランビエルは日本語も多少は理解できる。ウィルソンは、ランビエルに詳細なテーマを伝え、1月以降、毎日の練習のなかで、細かい演技面をブラッシュアップできるようになった。

 そして宇野自身が最も大きく感じている変化は、精神面だ。12月の全日本選手権の際に宇野はこう話していた。

「ステファンは日頃の練習で、やっとスケートを楽しめるように戻してくれたかけがえのない存在です。このコーチのために、一緒に戦っていきたいという気持ちになりました」

 ランビエルもこう考えていた。

「僕の役割は、選手一人一人が持っている才能を引き出し、スケートの楽しさを感じられるように背中を押すことです」

 そんな刺激を受けて迎えたチャレンジ・カップ。宇野の演技は、まさに別人だった。

 ショートは、軽やかな4回転フリップを決め、一つミスはあっても90点超えをマーク。

 さらにフリーは圧巻だった。一言でいうと、色気が出てきたのだ。例えば、単に両手で頬を挟んでいた動きが、切なそうにねっとりと手のひらで首筋を撫でる。手先だけでなく、背中や頭をやわらかく動かし、重心もたくみに変化させる。音楽に合わせて動くという段階から、感情表現を加えるというステージに上がったことが見てとれた。演技構成点はすべて9点台で、弾みになる評価だった。

 またスピンの名手として知られたランビエルの指導効果が表れたのは、やはりスピン。フリーの最後のスピンでは、ジャッジ7人中5人が「+5」を出し、スピンだけで5.18点を獲得した。美しい変形姿勢で高速回転する様子は、師匠の現役時代をも彷彿とさせた。

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