もちろんジャンプ面でも、新たな挑戦があった。苦手意識があり試合ではほとんど使わずにいた4回転サルコーを入れたのだ。今季前半は得意の2種類の4回転だけで戦っていたが、ランビエルが「来季以降を見据えて、4種類を常に練習しておくべきだ」と背中を押したという。
試合前、宇野はこう語った。
「4回転サルコーはおそらく失敗する。たとえ失敗しても下向きにならず、最後までちゃんと笑顔で滑り切るのが目標です」
それくらい自信はなかったが、本番は、冒頭の4回転サルコーを美しく成功させた。
「びっくりして『降りるんだ』って笑いながら、次の4回転フリップに行きました」
一つミスはあったが、他3本の4回転をクリーンに降り、総合290.41点。世界選手権のメダル争いに、一気に名乗りを上げるスコアだった。
「僕1人だったら、絶対にサルコーは入れていませんでした。あと一押しをしてくれました。試合前は『チャレンジを楽しんで』と言われて、本当にそれができました」
新コーチのもとで、精神面も技術面も変化していく宇野。22歳の新たな魅力が、世界選手権で弾けそうだ。(ライター・野口美恵)
※AERA 2020年3月9日号