「もはや、ただのスタンプラリーでした」(30代男性)

 会う時間が少なすぎて、彼女には振られた。別の同僚は婚約破棄にまで至ったという。

 厚生労働省の報告書によると、医師は他の職種より抜きん出て、労働時間が長く、約3.6%が自殺を毎週または毎日考えるともいわれる。

 しかも、これほど働いた男性の手当は月額3万円。いわゆる正当な報酬をもらっていない「無給医」だ。男性は院生が多忙な理由をこう語る。

「無給医はタダの人材ですから、事務職員を雇うより安く済んでしまう。医師免許を取って専門職になったのに、医療に集中できない。周りの院生の中には、それが当たり前だと信じ込んでいる人もいます。外部からうかがい知ることができない医局は、ブラックボックスです」

 もちろん、それだけでは年間100万円以上は優にかかる学費や生活費をまかなえない。大学からあっせんされた病院へ週に1.5日、外来のアルバイトに行き、土日は当直。男性の年収は当時、それでも600万円ほどにしかならなかった。(ライター・井上有紀子、編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年3月2日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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