新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 (c)朝日新聞社
新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真 (c)朝日新聞社

 新型コロナウイルスの流行拡大が止まらない。そんな中、無責任にSNSで煽るような人々もいて、WHOはインフォデミック(情報の流行)という言葉でこれを批判している。だが、実際の臨床やウイルス学を知らない“自称”専門家も、その一翼を担っている(PCRの感度を上げていけば潜伏感染もわかるなど)。

【コロナウイルスに便乗した悪意あるメールも! こんな文面で届く】

 武漢では患者増加はやや鈍化し、中国の他の都市では武漢より患者数も死亡率も低い。生物兵器の流出などといった荒唐無稽な陰謀論を拡散する前に、中国の疾病対策で何が成功して何が失敗だったか、また、不幸にして亡くなった方はどのような要因が関与しているのかなど、日本での流行抑制に重要なことがあるだろう。

■中国でのコウモリの存在

 さて、新しい感染症の流行はたいていの場合、動物の感染症がヒトに宿主を広げることで発生する。『銃・病原菌・鉄』で有名な米国のジャレド・ダイアモンドは、自然宿主である動物の感染症(多くは無症状)がヒトに感染性を獲得することで人獣共通感染症となり、さらにヒトヒト感染を獲得することで新興感染症となるという典型的な疾患の成り立ちを提唱している。

 今回の新型コロナウイルス感染は、まさにその経過をたどったものといえるであろう。当初、コロナウイルスはヘビに由来するとされたが、その根拠はあやふやで、結局はコウモリだった可能性が強まったようである。

 コウモリというと、お化けやカボチャや黒と共にハロウィーンの定番である。夜、音もなく敏捷に飛翔し、昼間は洞窟や屋根裏で逆さまになって休むなどあまり良いイメージはない。ただ、中国ではコウモリは慶事、幸運のしるしで、たいそう縁起がいいものとだそうである。その根拠は漢字のコウモリ「蝙蝠」の「蝠」の字が「福」と同音であるためだそうである。

 特に、5匹のコウモリの絵は「長寿、富貴、健康、子孫、繁栄」の「五福」だそうである。日本でもゴールデンバットという両切りの安たばこがあった。薄緑の箱に黄色のコウモリ模様が描いてあったと思う。太宰治が『富岳百景』で、雁坂峠(かりさかとうげ)の茶屋で「とりとめのない楽書をしながら、バットを七箱も八箱も吸ひ」というのはこれである。国籍不明なこのデザインは、中国市場を意識したものらしい。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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コウモリ宿主のウイルス