「私の成長」の文章は、授業で学生が書いた印象的なESをいくつか合体し、筆者が手を加えて創作したものだ。人事のアウトソーシング企業「モザイクワーク」で、複数の会社の人事部長を兼任する高橋実さんは、読んだ印象をこう語る。

「この子はすごく積極的で、サークルでもリーダーシップをとっている。企業としては欲しい人材だと思います。けれど文章を見ると、言葉の重複やよじれ、変な敬語の使い方などが目につき、もったいない。その辺りの文章力が上がればなおいい」

 高橋さんは自身の高校時代の経験も踏まえてこう助言する。

「野球部のキャプテンだったのに最後の大会は部員の不祥事で出場できず、人生最大の挫折を経験しました。でもたとえばESには、自分がその時、キャプテンシーをどう発揮したか、精神的にどうリカバリーしたか、そうした過程を書けばいい。自分を客観的に見る視点を持つことが、ESでは最も大切です」

 高尚なエピソードより、その時の自分の素を描く。そのためには日頃から気持ちが動いたときにメモしたり、短文を書く癖をつけるといった「反復練習」が必要だ。付け焼き刃では、担当者から見透かされる。(ノンフィクション作家・神山典士)

AERA 2020年2月24日号より抜粋