コメディー、ミステリー、社会派ドラマなど、ジャンルが入りまじる構成、想定のできない方向に進んでいく物語。舞台となる家のセット、カメラワークから配役に至るまで、一ミリの狂いもなく作られたこの作品は、娯楽性を兼ね備えた芸術作品であり、それはまさしくハリウッドが求めるもの。アカデミー賞の作品賞には「プレファレンシャルバロット」という、一つの作品を選ぶのではなく、作品賞ノミネート全作に順位をつける投票方法が適用されます。「パラサイト」はほとんどの投票者の上位に位置していたと思って間違いはないでしょう。

 1990年代、オスカーの主要部門に出てくるのは白人男性ばかりでした。その後ダイバーシティーが叫ばれるようになり、2010年代の大改革を経て、アカデミーの構成員も変化しました。

 今回、非英語作品が作品賞を取るに至る陰には、これらの改革と共に、インターネットやSNSによって、世界が近くなったことがあると思います。10年以降、アメリカ出身の監督が監督賞を受賞したのは実に16年度の1回のみ。イギリス出身トム・フーパーはともかく、それ以降はフランス、台湾、メキシコと外国出身の監督ばかりでした。英語作品であるとはいえ、非英語圏の監督が目覚ましく進出していた時点で、非英語作品が作品賞を取る日が近づいていることを感じました。

 国籍やアイデンティティーを考える時、言語を一つの基準にするのは自然なこと。ゆえに、アメリカの映画賞であるアカデミー賞は「英語である」ことが無意識に重要視されてきました。しかし多様化を受け入れるこの時代、言語が英語である必要はないと人々はようやく気付き始めたのではないでしょうか。

「パラサイト」により、不可能は可能になりました。今後もアカデミー賞が楽しみです。(オスカーウォッチャー・Ms.メラニー)

AERA 2020年2月24日号