女性は来日して3年。ゆっくりとしたスピードの日本語なら聞き取れる。読み書きできるのは、ひらがなと簡単な漢字だけ。母語はタイ語。英語は苦手だ。アナウンサーが話す日本語は難しい。取材でも、記者が口にした「災害」という言葉がわからなかった。「たくさん雨が降った日のことについて、お話ししたいのですが」と伝えると、「大雨のこと?」とわかってくれた。ただ、記者の言葉が疑問形になっていることは伝わらない。「教えてください」と言わなければいけないのだ。やさしい日本語の難しさを痛感した。

 一方、ある程度日本語能力の高い外国人が相手であっても、「やさしい日本語」を意識することで理解が深まる。

 ベトナム人のタァ・フォンさん(32)は、立命館アジア太平洋大学(大分県)を卒業して10年、日本語の日常会話には不自由しない。記者の取材に対しても、流暢な日本語で回答してくれた。だが、以前勤務していた海外展開する日系の大手企業で上司から、「この書類は、コピーしたほうがいいね」と言われたとき、指示ではなく今後のアドバイスと思い、無視してしまったという。

「コピーしてください、と言ってくれたらよかった。言葉の裏側を考えることが求められました。これは日本人特有の考え方です」(タァさん)

 こうした行き違いを避けるため、フリマアプリを運営する「メルカリ」では、「やさしい日本語」講座を開催している。同社の東京オフィスのエンジニアの4割は外国人、国籍は40カ国を超える。社内は英語と日本語が飛び交う環境にあり、どちらかの言語が推奨されているわけではない。

 だが、たとえば複数の日本人のなかに外国人が1人だけというミーティングの場合、会話は日本語になりがちだ。外国人は意味がわからなくても、会話を中断して、尋ねるのは難しい。わからないと言える、わからない人がいないか気遣える関係を作ることが、講座の最大の目的だと広報担当の鈴木万里奈さん(25)は語る。

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