「講座が始まって社員の話し方は変わってきました。『あなたの話し方はやさしくない』と指摘し合える関係になることが大切です。単にゆっくりと、簡単な言葉でコミュニケーションを取るのでは、子ども扱いされていると感じるメンバーもいる」

 都内のNPO法人で日本語教師のボランティアをする菊地優さん(35)は、NPO法人のツイッターで「やさしいてんき@とうきょう」と題して、毎朝、東京都の天気予報をやさしい日本語にして投稿している。その作業を通して、あらためて日本語の曖昧さ・難しさに気づいたという。「夜にかけて、雨が降るでしょう」という予報。「夜にかけて」とは何時頃なのか。「降るでしょう」は推測なのか断定なのか。悩んだ結果、「夜まで雨が降る」と訳した。

「はっきりしない表現はできる限り省き、伝えたいポイントが明らかになるようにしています」(菊地さん)

 立命館アジア太平洋大で日本語教育を担当する本田明子教授(57)は、こう話す。

「やさしい日本語は今後、日本語ネイティブでない人と話すときの言葉として、ネイティブが身につけるべきものです。方言や若者ことばといったことばのバリエーションを一つ増やす感覚で使ってはどうでしょうか。外国人だけでなく、日本人に対しても使えます」

 言葉を理解するのが難しい知的障害者が、やさしい日本語で書かれたニュースを読むと、一定以上の分かりやすさを感じたという調査結果もある。冗談や比喩を理解するのが苦手な発達障害の人にとっても有効だといわれている。

 やさしい日本語は「易しさ」と「優しさ」の両方の意味を持つのだ。(ライター・井上有紀子)

AERA 2020年2月3日号より抜粋