今回の入試改革では、英語の「スピーキング」テストの導入も大きな争点になっています。センター試験でリスニングを開始したのは06年。80年ごろから実験が始まり、実現に約25年を要しました。テープレコーダーを使った実験では、大教室で均質に音声を伝達することが難しかった。その壁を打ち破ったのはICプレーヤーの登場でした。テクノロジーの進化によってかなえられたのです。

 加えて、「1点刻み」の評価からの脱却も新入試の主要なテーマのひとつでした。一定基準を超えれば入学できる「資格試験化」ですが、それには日本の教育制度を大きく変える必要がありますし、大学の入学定員の厳格化とも矛盾します。定員を厳密に管理するには、1点刻みで上から定員数の学生を選ばざるをえません。

 ただし、今後、まったく可能性がないわけではありません。例えばMOOCs(ムークス)という、インターネットを通じて世界中の有名大学の授業を受けられるシステムがあります。このようなシステムがさらに普及すれば、キャンパスのキャパシティーに縛られず入学させることができるため、入試の「資格試験化」も可能になります。

 このように理念を実現するには、時間と環境整備が必要です。今回の入試改革の混乱の一因は、入試の中身を変えることだけで教育全体を変えようとした歪みと拙速さにあったと思います。

 センター試験が31年続いたのは個々の受験生に緻密(ちみつ)に真摯(しんし)に対応してきたからではないかと思います。しかしそれは民間の市場原理とは相いれない部分もあり、積み上げてきた資産の検証は、今後の入試のあり方を考えていくうえで重要です。その検証を踏まえた最善の試験が提供されていくことを願っています。

(構成/編集部・石田かおる)

AERA 2020年1月27日号