さらに、ワクチンへの信頼度が低いことも特徴だ。英誌「ネイチャー」は昨年、「世界でもっともワクチンが信頼されていない国のひとつ」と日本を名指しで批判した。記者の周囲にワクチンへのイメージを聞いていても、「打っても効かない」「副反応が怖い」「自閉症になるかも」など好意的とは言えない答えが返ってくる。だが、ナビタスクリニック理事長で内科医の久住英二医師(46)はこう断言する。

「ワクチンを打って生じる不都合が、打たない不都合を上回ることはありません。公衆衛生を度外視して個人の利益だけを考えても、ワクチンを打つことにマイナスはありません」

 ワクチンの有効率はそれぞれ異なり、麻疹・風疹では95%に達するが、インフルエンザでは60%程度。有効率60%とは、「予防接種を受けた集団では受けていない集団より感染者が60%少なくなる」という意味だ。つまり、予防接種を受けていても一定数は感染する。だが、それをもって「効果がない」と考えるのは早計だ。

「インフルエンザの場合、年齢によって効果が異なります。子どもでは、予防接種で発病者を3分の1くらいに減らせます。高齢者では、肺炎になったり重症化したりする人を減らす効果があります」(久住医師)

 予防接種を受けると、本来想定していない反応「副反応」が起こることがある。接種箇所が赤く腫れたり、なんとなく体がだるくなったりするのもそのひとつだ。ほとんどは軽微だが、稀に重い副反応が出る。厚生労働省の資料によると、副反応の可能性がある重篤な症状として届けられる割合は、インフルエンザワクチンで10万接種あたり0.2件、麻疹・風疹や3種混合ワクチン(百日咳、破傷風、ジフテリア)の場合は10万接種あたり1件。10万分の1とはいえ、それが自身や家族に当たったら……。そう思うのは自然だろう。だが、久住医師は言う。

「ワクチンが原因で死亡したり重い障害が残ったりするケースはまずない。重篤な副反応とは医療的な介入が必要だったケースのことで、ほとんどが問題なく回復します。むしろ、予防接種を受けないことで感染症にかかり、重症化する可能性の方がはるかに高いのです」

「自閉症になる可能性がある」とか、「人工的な免疫は体に悪い」といったたぐいの話は、医療関係者のほとんどが議論する価値のないデマだと断じる。(編集部・川口穣、小田健司)

AERA 2020年1月20日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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