正しい理解が求められるのは、医師や看護師に限らない。ACPには薬剤師、ケアマネジャー、心理士、精神科医、リハビリの療法士など、なるべく多くの職種の人が関わることが大切だと、東京都の永寿総合病院で緩和ケア医を務める廣橋猛(ひろはしたけし)さんは言う。

「チームプレーが緩和ケアの根幹。その患者にとって力になれる人は、みんな参加する権利があるんです」

 千葉県鴨川市の亀田総合病院在宅診療科部長で家庭医療専門医の大川薫さんは、たとえば胃ろうの選択など医療者とのACPが必須な場合もあれば、医師が入らないものもあり得ると言う。

介護が必要となったときに、治療だけでなく生活を考えるのも大切なACPです。この場合は、家族だけでなく多職種の人を交える必要があります。全員がそろわなくてもさまざまな機会に話し合っていくことが大切です」

 では、「いつから」始めればいいのか。大川さんは、まだ自分や家族が健康でも、もしものときに何を大切に過ごしたいかを、元気な頃から「準備体操」として考え、家族などと話しておくことを勧める。

「知人が病気になったときや著名人の闘病記をきっかけにして、家族や自分がもしも同じ状況になったらと考えてみましょう。何かを決めるのではなく、どうしてそう考えるのかを話し合ってみることです。ただし、心の準備ができていない人に無理強いはいけません」

 さらに、ACPはもっと広く捉えることができると言う。

「もしものときの医療や介護のこと以外にも、その人の価値観や人生の目標を話すことも含まれます。それぞれの語りを通して家族や大切な人と出会い直す。また、状況に応じて意向が変わる場合もあることに気づく。もしものときのことを考え、自分と大切な人を見つめ直すことは、しなやかに生きることにもつながります」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年1月13日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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