新指導要領では、AIやグローバル化による、予測困難で変化の激しい時代に子どもたちが対応していくため、「実社会で必要とされる国語の力」により重きがおかれた。OECDの学習到達度調査(PISA)や、新井紀子さんの『AI vs.教科書が読めない子どもたち』で問題提起された、読解力の低さへの危機感もある。安藤教授は言う。

「即戦力を求める、社会の要請もあるのでしょう。しかし実用的なわかりやすさばかりを優先し、わからないものに向き合うことを軽視するのは危険です。一番わからないのは『人の心』。それにアプローチするのが文学や哲学などの人文知です。グローバルで多様な価値観のなか生きていく時代であればこそより重要になる」

 沖縄県の公立高校2年の女子生徒(17)は、化学の研究者になるのが夢だ。高校1年から塾に通い、各種模試も受けている。受験年となる、20年度から開始予定の大学入学共通テストは新学習指導要領と連動しているため、模試には実用文が出題されている。

「例えば、集合住宅のスロープ設置で住人が費用負担をめぐって議論したり、小学校の学校選択制を家族で話し合ったり。会話形式の問題文に関連するデータや資料がついてきて最適解を探ります。要はもめごとの話なんです。こういうのも必要なんだろうと思いますが、新指導要領でこんなのばかりになってしまったら、国語で『生きる力』が本当につくのかなって思ってしまいます」(女子生徒)

 女子生徒が読解力や論理的思考が鍛えられたと実感するのは、一昨年、1カ月間かけて『羅生門』を読み込んだ学校の授業だ。

「登場人物の行動や心理を考えるとき、必ず『根拠』を探しました。同じ場面でも、人によって見方が変わるのがとても勉強になりました。大学に入ったら、色々な論文を読まないといけなくなるので、多様な視点や発想を知ることはすごく大事だと思っています」

 一方、「論理国語」の新設を支持する声もある。日本語教育を専門とする、東海大学の村上治美教授は言う。

「いわゆる国語と、外国語のように言語スキルを学ぶ『日本語』と、別建ての発想が必要だと思います」

 村上教授は、大学に入学する学生たちがリポートをきちんと書けないことに、多くの大学が頭を抱えていると指摘する。

「頭に浮かんだことを段落分けすることなく書き連ねてしまう。文章を構成する力が身についていないのです」(村上教授)

 対策として、東海大学では1年生の必修科目で、新聞記事の要約をさせ、文章の構成の仕方を教えている。

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