心から本音を語るためにはその場が安心で安全であることが欠かせない。刑務所職員と受刑者の間にはそれを可能にする信頼関係が築かれていると感じた。

 カナダには「ブッククラブ・フォー・インメイツ」というNPOがあり、28カ所の矯正施設で読書会を展開している。日本でも16年に出版されて話題になった『プリズン・ブック・クラブ』の舞台コリンズ・ベイ刑務所を訪問し、読書会メンバーの話を聞いた。

 ストーン・キャッチャーズと違い、ここでファシリテーターを務めるのは外部のボランティア2人。施設の担当者をとおして受刑者側の代表2人と連携し、12~15人規模の読書会を運営する。多くのボランティアにとっては、刑務所に足を踏み入れること自体初めての経験だ。牧師だという男性は「外での読書会よりはるかに正直で深い議論を聞き、受刑者に対する見方が変わった」と話す。

 一方、受刑者にとってボランティアは社会との貴重な接点だ。

「自分たちを一人の人間として扱ってくれるのが嬉しい」と、受刑者代表のメンバーは言った。

 別の受刑者はこう語る。

「自分の体は自由でなくても、心は自由に羽ばたける。自分の知らない未知の世界に行ける。その翼をくれるのが本なんだ」

 先にも述べたように、本は想像力や共感力を養い、被害者に思いを寄せるきっかけもつくる。日本の刑務所で読書会が開かれているところは筆者の知るかぎりないが、再犯防止の一助になるのではないだろうか。いつか実現できたら、と思う。(ジャーナリスト・大塚敦子)

AERA 2019年12月16日号より抜粋