スタフォード・クリーク刑務所IMUユニットでの読書会。両手両足を鎖でつながれ、椅子に固定されているが、読書の楽しさを知った受刑者たちの議論は活発だ(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)※写真はいずれも本人の了解を得て撮影しています
スタフォード・クリーク刑務所IMUユニットでの読書会。両手両足を鎖でつながれ、椅子に固定されているが、読書の楽しさを知った受刑者たちの議論は活発だ(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)※写真はいずれも本人の了解を得て撮影しています
スタフォード・クリーク刑務所の一般ユニットでの読書会。『アルケミスト』の主人公サンチャゴの旅に共感し、熱く語り合う(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)※写真はいずれも本人の了解を得て撮影しています
スタフォード・クリーク刑務所の一般ユニットでの読書会。『アルケミスト』の主人公サンチャゴの旅に共感し、熱く語り合う(撮影/ジャーナリスト・大塚敦子)※写真はいずれも本人の了解を得て撮影しています

 米国やカナダの刑務所では、本の力を活用し、人間的な成長につなげようと盛んに読書会が開かれている。他者への想像力を育み、被害者の苦しみに気づけるようになることは再犯防止の上でも重要だからだ。AERA 2019年12月16日号ではその現場を取材。本誌に掲載された記事を紹介する。

【写真】スタフォード・クリーク刑務所の一般ユニットでの読書会

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 米ワシントン州のスタフォード・クリーク刑務所での読書会「ストーン・キャッチャーズ」。IMUと呼ばれる特別なユニットで開かれていた。IMUに収容されているのは、自他を傷つける恐れがあるため1日の大半を独居房で過ごさなければならない受刑者たちで、読書会は他者と関われる数少ない場だった。読書会に参加するためには全身の身体検査を受けなければならず、さらには両手両足を鎖でつながれ、椅子に固定されるが、それでも彼らは本を抱えて房から出てくる。

 昨年訪れた日のトピックは、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』。ナチスのユダヤ人強制収容所での経験が綴られたこの本に心を揺さぶられたという若い受刑者が、こう話していた。

「自分たちはいつここを出られるかわかっているが、彼らは生きて出られるかどうかすらもわかってなかった。人間にはそんな状況でも耐える力がある。それを知ったことで、自分も耐えられるような気がしてきた。そして、まだ自分は誰かの役に立てるんじゃないか……そんな気がしてきたんだ」

 今年9月に再訪すると、読書会は10人ほどのグループが二つに増え、毎週1回2時間、一般ユニットで開かれていた。受刑者2人がファシリテーターを務め、刑務所の教育部門の職員も2人参加する。最初は第1グループで、『種をまく人』などの読みやすい本からスタート。3~4カ月したら、第2グループへ。計12冊の本を読んで完結するが、希望者はリピートできる。

 本を読んで考えたことを話し合う読書会の醍醐味は、さまざまな異なる意見に接することができることだ。多くの受刑者が、「自分の考えを言葉で表明できるようになったと同時に、人の意見を尊重できるようになった」と話す。「皆が同じ本を読むことで、まるで一緒に旅をしているような感覚が生まれる」とも言う。年齢も出身も人種も異なる人たちが一つになって語り合えるのは、同じ本を共有しているからだと。

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