一方、ちょっとおっちょこちょいでおちゃめ、いつも楽観的なアナに、「こんな暗さは生まれて初めて」と希望を失いかける瞬間がある。それでも、「涙こらえて進もう 一人でもやろう できることを」と一歩一歩前進し続けることを学ぶ。アナはプリンセスから女王になるのにふさわしい成長を遂げていく。

 二人で一人前だったような姉妹が、自分たちのルーツを知る冒険によって大きく成長し、二人以上の力を得たように見える。

 リー監督は言う。

「姉妹はぶつかり合っていた時も、お互いが闘っていたわけではない。でも、(今作では)お互いを支え合うことでそれ以上に強くなれる、ということを証明したと思います。また、強くあるためには、お互いが孤独でいる必要はないということも」

 ところで、エルサとアナの絆を深掘りし、姉妹がより強い女性に成長したと感じる一方で、「アナ雪2」では男性キャラクターの影が薄い。前作では、クリストフがアナを守りながらともにエルサの住む氷の城へ向かった。死にゆくアナを相棒のトナカイ、スヴェンと必死に助け出そうともした。だが、今回はそんなヒーロー的な活躍シーンがない。それどころか、アナへのプロポーズを画策している間に姉妹が冒険へ出てしまい、置いてけぼりに。「君を求めて道にさまよう迷子のよう……」と嘆く。歌にのせて不安を吐露する姿は強烈だ。こんな「男らしくない」ことを口にする男性キャラはディズニー映画史上初だろう。

 そんな驚きを二人の監督にぶつけると、バック監督は言った。

「クリストフは僕。僕はプロポーズで大失敗をしたんです」

 バック監督だけではない。脚本の段階で、クリストフについて男性スタッフ陣が「プロポーズに葛藤した僕たちもいるんだけど」と自分たちの思いを語り始めたとリー監督が明かす。

「彼らと同じように、クリストフもアナを愛しているのに、自分の愛情をどうやって表現すればいいかわからないタイプだと思いました。自分の愛をうまく表現できずに葛藤する男性の姿はリアルなことなのです」

 時代とともに女も変われば、男も変わる。「シンデレラ」好きだった記者は改めて、「男は、女はかくあるべき」との呪縛に縛られていたことに気づかされた。「アナ雪」シリーズで育つ子どもたちがうらやましい。(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年12月16日号