斬新な色遣いや編み柄で知られるミッソーニでは、優美なニットドレスを着たモデルが大きな花籠を持ち、自然礼賛を表現した。フィナーレではモデルがソーラーランプを持って登場するなど、環境問題に対するメッセージを伝えた。

 同様のメッセージは、パリコレクションでも多くみられた。

 1960年代から「ビニール(プラスチック)」ジャケットが、ブランドのトレードマークになっているクレージュは、18年9月にプラスチック素材の廃止を宣言。今コレクションでは従来のものよりプラスチック成分を90%削減した海藻とマッシュルームでできたエコビニール生地を披露した。

 また、ジャケットの素材に絶滅が危惧される食用の巨大魚「ピラルク」の皮の部分を使用。本来捨てられていた部分を買い取り、売り上げの7%を環境保護団体に寄付する仕組みだ。

 こうしたブランドは他にもあり、ロエべも収益の一部を海洋汚染対策に寄付するという。

 もちろん、見どころは環境に対するメッセージだけではない。理屈を超え、心躍る楽しさを見せてくれたのは、パリを代表する老舗シャネルだ。

 特に今季は、長きにわたって伝説的存在であったカール・ラガーフェルドの逝去後初めてのプレタポルテコレクションである。神話の終わりか、新たな物語が紡がれ始めるのか、注目が集まっていた。そんななか登場した白黒の配色や柔らかく繊細なパステルのイブニングは、モダンでありながら伝統も踏まえ、まさに正統のシャネル。継承したヴィルジニー・ヴィアールは大きな拍手で包まれた。シャネルは現在ヨーロッパの伝統工芸と技術の存続を願い、職人の技能と工房を集結させた施設「19M」を建造中である。

 セリーヌは前季に続き、70年代のフレンチブルジョアの雰囲気を漂わせたボヘミアンなドレスを提案し、好評を博した。

 サスティナブルに向け、大きく舵を切ったファッション業界だが、課題は多い。資材や素材のリサイクルやアップサイクル、寄付の形、生産、流通の在り方。そしてラグジュアリーであることとの共存。試行錯誤の道のりが、今シーズンのショーを通して少しずつ明確になってきた。

(ファッションジャーナリスト・藤岡篤子)

AERA 2019年11月25日号