ガブリエルが生まれたのは1883年。貧しい家庭に育ち孤児院に預けられるが、1910年、27歳のときに実業家の恋人の支援で帽子店を創業。以降、機能的な服、今も世界中で愛される香水「N°5」など、女性のファッションに新しい風を吹き込んだ。「流行ではなくスタイルを生み出した」とは、ガブリエル本人の言葉だ。

 ガブリエル亡き後のブランドを再興したのは、83年からアーティスティックディレクターに就任したカール・ラガーフェルドだ。創業者のスタイルを受け継ぎながらも現代的に洗練されたデザインを発表し、注目を集め続けた。そのラガーフェルドが今年2月に85歳で亡くなり、現在は彼の右腕としてメゾンを支えてきたヴィルジニー・ヴィアールがブランドを率いる。

「展示を通してシャネルのデザイナーの姿勢を知って頂きたい。デザイナーたちは、常に未来を見据えながら定番のアイコンに深みを与えていく。今日も明日も、これまでの歴史を大切に、次世代に引き継いでいく。それこそシャネルというブランドを唯一無二にしているのです」(パブロフスキー氏)

 シャネルは新しい技術も積極的に取り入れている。シリコーンのような硬い素材を3Dプリンターで格子状に出力して生地にし、職人が丁寧に縫い付けて作ったオートクチュールのスーツも展示されていた。15年のコレクションで発表されたものだ。

 ラグジュアリーブランドでありながら、公式ツイッターのフォロワーが1300万人を超えるなど、若い世代へのアプローチも積極的に行っている。

「デジタルはお客さまと我々を繋ぐツールです。それはブランドに抱く“夢”に繋がっていく。ヴィルジニー・ヴィアール本人と話したことがなくても、いま彼女が何を考えているのか、その“秘密”を少しでも発信していければと思っています」(同)

 現在のファッション業界にとって重要な課題の一つが、サステナブル(持続可能)であることだ。これについて、「環境への配慮とラグジュアリーであることは矛盾しない」とパブロフスキー氏は語る。イニシアティブを取っている具体的な取り組みの例として挙げたのは二つ。

 一つは15年に、ラグジュアリーブランドとしては初めて世界同一価格で製品の販売を始めたこと。根底には利益を上げる以上に、ブランドの世界観を感じてほしいという考えがある。もう一つは、将来的にアリゲーターやクロコダイルなどのエキゾティックレザーの使用をやめると表明したことだ。

「シャネルの製品を着ることに誇りを感じてほしい。美しい地球を次世代の子どもたちに残すことを常に念頭に置いています」(同)

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年11月18日号