ベージュの部屋/オートクチュールのドレスには、職人の手仕事によって生み出される美しい刺繍がほどこされている(撮影/写真部・小山幸佑)
ベージュの部屋/オートクチュールのドレスには、職人の手仕事によって生み出される美しい刺繍がほどこされている(撮影/写真部・小山幸佑)

「マドモアゼル プリヴェ展」を開催中のシャネル。グローバルファッション部門トップにものづくりのあり方を聞いた。AERA 2019年11月18日号に掲載された記事を紹介する。

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「マドモアゼル プリヴェ」

 マドモアゼルとはココ・シャネルの愛称で親しまれたシャネルの創業者ガブリエル・シャネルのことだ。冒頭の言葉はパリのシャネル本店4階に位置する彼女のクリエイション・スタジオの入り口に掲げられていた。彼女が数多の伝説的な作品を生み出した場所であり、プリヴェ(プライベート)の言葉通り、恋人や友人たちと共に私的な時間を過ごした場所でもある。

 その言葉に由来する展覧会が、東京・天王洲で開催中だ。入り口を抜けると、目の前に真っすぐな大きな階段が現れた。左右にはだまし絵が描かれ、一定の場所に立つとパリ本店の3階にあるガブリエルのアパルトマンに続く鏡張りの螺旋階段のように見える仕掛けになっている。まるで彼女のアパルトマンに足を踏み入れたかのようだ。展覧会のオープニングに合わせて来日した、グローバルファッション部門プレジデントのブルーノ・パブロフスキー氏はこう語る。

「この展覧会を通して、シャネルというブランドの背景にある秘密や神秘性といったものの一部を皆さんにお見せできたらと思いました。アトリエは、普段は限られた人々の目にしか触れない場所です。ですが、そこにはブランドを支えるヘリテージ(伝統)がある。ブランドの裏側にある、デザイナーの息づかいを感じてほしいと思いました」

 ホワイト、ベージュ、ブラック、レッド、ゴールド。会場はブランドを代表する五つの色をもとに構成されており、そこには常識にとらわれないガブリエルの自由な精神が宿っていた。

 たとえば、ベージュ。これは日光浴を好み、ビーチでの時間を愛した彼女だから価値を見いだした色だ。当時、上級社会では日焼けは避けるべきものとされていた。だがガブリエルは「日焼けがなぜ悪いの?」と、砂浜の色であるサンドベージュをキーカラーの一つにした。黒もそうだ。「黒と言えば喪服」とされていた1926年、ガブリエルは「リトル ブラック ドレス」を発表。クラシックでコンパクトな黒いワンピースの登場により、黒は女性を引き立たせるエレガントな色に変わった。

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