AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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世界で50以上の言語に翻訳されている村上春樹の作品。本作は村上文学をデンマーク語に翻訳するメッテ・ホルム(61)を追うドキュメンタリーだ。
「最初は『私の日本語、おかしくない?』『なぜカエルが出てくるの?』などと思ったのですが、次第に理解しました。この映画は監督の『夢』なのだと。観終わって『いい映画。もう一回観たい』と言うと、監督はホッとしていました」
翻訳に取り組むメッテを「かえるくん、東京を救う」(『神の子どもたちはみな踊る』に収録)に登場する“かえるくん”が見守るシーンなど、映画はどこか幻想的な雰囲気も持ち合わせている。
「私が好きなのは『風の歌を聴け』の本の装丁を決めているシーン。私が編集者の案を『気に入らない』と言うと、彼の顔がどんどん真っ赤になっていくでしょう?(笑)」
メッテと村上作品との出合いは1995年、『ノルウェイの森』。
「読みやすくユーモアがあって、とても美しいと思った。彼の小説は私たち誰もの普通の生活に近いのだと思います。アイロンをかけ、パスタを食べて、レコードを聴く。そのなかで日常の見方が少し変わっていくような感覚がとても好き。彼の作品を読むと『世界をオープンに、開いていく』という感じがするんです」
2001年にまず『ねじまき鳥クロニクル』を翻訳し、以降、15作品を手掛けてきた。
「翻訳とは作者の世界を自分の中に入れて、翻訳者の体を通して出す作業。自分がその本を読んだときの感覚にどれだけ近づけられるか、常に闘っています。でも完璧な翻訳というものはないんです」
村上本人とも親交があり、訳について聞くこともあるが、
「いつも後悔します。『やっぱりそうよね! 聞かなければよかった』って。村上さんはほかの翻訳者とも同じようにしている。彼も翻訳をするので、私たちの苦労を理解してくれているのだと思います」
村上春樹とはどんな人なのだろう?