「FODMAP」とは、小腸で吸収されにくい、発酵性(Fermentable=F)の四つの糖質のこと。それぞれ、オリゴ糖や豆類、パンなどの小麦類(oligosaccharides=O)、乳製品などの二糖類(disaccharides=D)、果物(果糖)などの単糖類(monosaccharides=M)、キシリトールなどのポリオール(糖アルコール polyols=P)を指す。

 高FODMAP食は、豆類、リンゴ、玉ねぎなど、腸によさげな食材が多い。

 過敏性腸症候群を引き起こすメカニズムはこうだ。FODMAPは小腸でほとんど吸収されないため、多く食べると小腸内のFODMAP濃度が上がる。するとFODMAP濃度を薄めようと大量の水分が小腸に引き込まれ、小腸内が水浸しになり、下痢につながる。

 さらに、小腸で吸収されなかったFODMAPは大腸に届き、腸内細菌がFODMAPを急速に過剰に発酵させ、大量のガスを作る。これが腹部の膨満感や腹痛につながるという。

「過敏性腸症候群の人には、この四つの糖質を控える低FODMAP食が望ましいと考えられます。私の経験では、低FODMAP食を3週間続けると、約75%もの患者に改善が見られました。30年間ひどい下痢に悩んでいたが、劇的に症状が改善した60代の女性もいます」

 過敏性腸症候群でも、どのFODMAPの耐性が低いかは人によって違う。FODMAPを控えた食事を続けると約3週間で、おなかの状態が凪のように静かになる。その後、1週間ごとにさまざまな高FODMAPを食べ、その都度状態を見る。おなかの張りや下痢から、自分がどのFODMAPに耐性があるかを見極めていく。

「私は傾聴ならぬ『傾腸』と呼んでいますが、腸からの声に耳を傾けることが大事です。食べものに対する腸の耐性は、人それぞれ。ある食べものを食べたことでシクシクしたり痛んだりする場合は、腸からの『注意して!』のメッセージかもしれません」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年10月28日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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