中山:私はもう絶対ないと思います(笑)。絶対に。

松尾:そう決めるのも生き方ですけどね。子どもがいない夫婦も増えていくだろうし、「契るってどういうことなんだろう。家族になる意味ってなんだろう」って、もっと問題になってくるかなと思います。

──50人の男女がローションまみれでまぐわう「女の海」のシーンは圧巻でしたね。さらに、その様子をライブ中継で海馬に見せられた綾子がつぶやく言葉に、衝撃を受けました。

中山:きっと、いろいろなものを超えないとでてこないセリフですね。呆然でもなく、怒りでもなく、驚きでもなく「あなた……」みたいな。

松尾:「これが俺の脳の中だ!」って見せられてつぶやくあの一言はこの映画で唯一、文学的なセリフだと思います。

中山:でも、私はこの作品は全体的に文学だと思いますよ。うまく言えませんけど。

松尾:本当ですか。ありがとうございます。理屈を超えている部分がけっこうあるからね。

──松尾さんは、この映画を「喜劇人としての到達点」と位置づけられています。

松尾:チャプリンとか森繁久彌さんとか三木のり平さんとか、コメディー俳優というジャンルが昔からある。その系譜に連なりたいと思っています。笑わせるっておもしろいんですよ。芸人さんだけにやらせているのはもったいない。でも、薄っぺらいコメディーは作りたくない。今、日本映画でコメディーというと、なんか薄っぺらい。そうじゃなくて、どしっと人間の本質を捉えながら、笑いが発生していく。僕の舞台もだいたいそんな感じですしね。

中山:撮影中は絶対にこれはおもしろいと確信していたけど、やっぱり大胆なシーンもけっこうあって、なかなか試写を見に行く勇気が持てなかった(笑)。やっと見に行って、「すごくおもしろかったです。最高傑作です」と松尾さんにお伝えしたかったんです。

松尾:この映画はドタバタコメディーといってしまえばそれまでなんだけど、その根幹にあるシリアスで文学的な部分を中山さんが背負ってくださった。ありがたいなと思っています。

(ライター・大室みどり)

AERA 2019年10月28日号