昨秋の世界選手権では、中国、ロシアに大きく離されて3位。個人総合でも1~4位を中国、ロシア勢が占めた。演技の難度を示すDスコア、美しさや雄大さなどの出来栄えを示すEスコアの両面で後れをとった日本勢は、萱和磨(かやかずま・22)の6位が最高だった。

 内村だけでなく、リオ五輪の団体優勝に貢献した白井健三(23)も今年2月に左足首を痛め、代表から漏れた。日本の「顔」と言える2人を欠いた状態で五輪前年の世界選手権に臨む。だが、水鳥本部長は「新しいチームを作るチャンス」と前を向く。

 世界選手権代表は5人。5月のNHK杯で初優勝した谷川翔(かける・20)、2位に入った翔の兄、谷川航(わたる・23)と3位の萱。残り2枠は6月の全日本種目別選手権で橋本大輝(18)と神本(かもと)雄也(25)が手にした。

 今年に限っては、世界選手権は「東京五輪へのステップ」という考え方で臨む。春先から、本部長が求めるのは「Dスコアの向上」。選手たちは代表が決まった後、それぞれに新しい技を演技に組み込み、難度を上げた構成で練習している。

 本来なら、世界選手権の前にやることではないが、見すえるのはあくまで東京五輪。世界選手権では完成に至らなくとも、五輪で精度の高い演技を披露するために、今のうちから取り組もうという狙いだ。

 ロシア、中国は昨年から主力メンバーがほとんど変わらない。「2強」との力関係を知る絶好の機会にもなる。たとえ今回は勝てなくとも、可能性のある演技を見せて2強に迫れば、来年に向けて「日本は強くなりそうだ」という印象を世界に与えることができる。採点競技である体操は、この「印象」が大事なのだ。

 来春決まる五輪の団体メンバーは「4枠」。現時点で「当確」と言える選手はいない。

 総合力の高い谷川兄弟、抜群の安定感を誇る萱。成長著しい橋本に加え、今夏の高校総体を制した北園丈琉(きたぞのたける・16)、昨年の高校総体王者の三輪哲平(18)らの名前が挙がる。もちろん、白井も黙っていないだろう。

 8月の全日本シニア選手権では内村も復調の兆しを見せた。演技の美しさはさすがで、「ケガさえ癒えれば」という期待を抱かせた。

 自国開催の五輪まで約10カ月。「体操ニッポン」の威信をかけた競争は、激しいものになりそうだ。(朝日新聞記者・山口史朗)

AERA 2019年10月7日号