内村航平、白井健三が代表から漏れたことで、群雄割拠の時代に突入した体操ニッポン。東京五輪へ向け、激しい競争による底上げが期待される (c)朝日新聞社
内村航平、白井健三が代表から漏れたことで、群雄割拠の時代に突入した体操ニッポン。東京五輪へ向け、激しい競争による底上げが期待される (c)朝日新聞社

 10月4日、ドイツ・シュツットガルトで世界体操選手権が開幕する。リオ五輪でチームを牽引した内村と白井を欠き、体操ニッポンはどう世界に挑むのか。1年後の東京五輪は。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。

【写真特集】体操ニッポンは世界にどう挑む?

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 来年に迫った東京五輪の前哨戦とも言える世界選手権に臨む日本代表の顔ぶれは、昨年までとガラリと変わった。何と言っても「キング」がいないのだ。

 ショッキングな光景が選手たちの目の前に広がったのは、今年4月26日の全日本個人総合選手権だった。

 海外からも「キング」とあがめられる内村航平(30)が、表情をゆがめて平行棒の演技を中断。冬に痛めたという左肩に激痛が走ったのだ。その後、演技を再開したが、最終種目の鉄棒では着地でマットに崩れ落ちた。

 結果は40位。高校2年生で初出場した2005年以来となる予選落ちに、試合後は「東京五輪は夢物語」「自信は1ミリも出てこない」と弱気な言葉が続いた。

 08年北京五輪で個人総合銀メダルを獲得すると、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ大会で個人総合を連覇。世界選手権では前人未到の6連覇を果たすなど、10年以上も世界の頂点に君臨してきた内村も、今年1月で30歳になった。

 体は「首から下は全部痛いようなもの」というほど悲鳴をあげている。昨年末ごろから左、右、左、右と肩を交互に痛め、「思うように体が動かないし、練習も積めなかった」と語った。

 日本体操協会の水鳥寿思男子強化本部長(39)は「信じられないところもある」と言った。満足な練習ができない内村の状況は知っていたが、「ここまで崩れるのは予想外だった」。

 世界選手権に内村が出場する可能性がほぼ絶たれるとともに、ここ数年、言われ続けてきた男子体操界の課題が一気に現実のものになった瞬間でもあった。

「内村頼みからの脱却」だ。

 その存在があまりに絶対的だったがゆえに、国内では長らく「内村超え」より「内村の次」に甘んじる空気が漂っていた。若手選手たちが目指すのは頂点ではなく、2番手、3番手での代表入り。演技は「ミスしない」ことが第一となり、小さくまとまったものになる。

 だが、その間に世界のライバルたちは大きく進化していた。

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