「おとなしくて、勝ち気が強いわけでもなく、表情も穏やかな子供でした。感情も表に出さなかったですが、内に秘める強い思いはあったんでしょうね。本当にうれしい」

 女子の優勝は前田穂南(天満屋)。タイムは2時間25分15秒。勤め先の天満屋は岡山市に本社を置く百貨店で、12年のロンドン五輪まで4大会連続で五輪代表が輩出した名門中の名門。8月の全英女子オープンで優勝した女子ゴルフの渋野日向子に続き、再び岡山からヒロインが誕生した。

 その前田。本人が喜んでいるかどうかはさておき、長い手足にピンクのユニホームという外見のため、スポーツジャーナリストの増田明美さんから「ど根性フラミンゴ」のニックネームをもらった。

 15日のレースでは、スタート直後から飛び出した一山麻緒(ワコール)がハイペースの展開をつくるが、8キロ過ぎで前田が先頭に立ち、独走した。

 母校の大阪薫英女学院高(大阪府)で前田を指導した陸上競技部の安田功監督(58)は8月、米国で合宿中だった前田から手紙を受け取っていた。

「絶対に優勝します」

 そう宣言していたという。

「控えめな性格の前田が珍しい。よほど仕上がりがいいのだろう」と安田監督は感じた。本番に向けては「(天満屋の)武冨(豊)監督を100%信じてついていけば、結果はついてくるはず」と期待する。

 2時間29分2秒で2位の鈴木亜由子(日本郵政グループ)は、増田さんに「おとぼけ秀才ランナー」と名付けられた。

 愛知県の米穀店に3人きょうだいの末っ子として育ち、名古屋大に進学。初マラソンで初優勝を果たした昨年の北海道マラソンでは、「レース後のパーティーで着る服を持ってくるのを忘れて、お母さんに買ってきてもらったんですよ」と、増田さんが「おとぼけ」ぶりを紹介してくれた。

 父親の伸幸さん(61)によると、小さいころは体が弱かったという。「どうしても親が手をかけて、甘やかして育ててしまったんです」。陸上に取り組むきっかけは、小学2年生の夏休み、近所であった陸上教室だった。「勉強とスポーツだけは自分で決めたことは集中して取り組む性格」(伸幸さん)と誇らしげだ。(編集部・小田健司)

AERA 2019年9月30日号より抜粋