ソウルの南方60キロの平沢にある在韓米軍司令部。港や空軍基地に近く、対北朝鮮より世界各地への出動に軸足を置いていることがわかる (c)朝日新聞社
ソウルの南方60キロの平沢にある在韓米軍司令部。港や空軍基地に近く、対北朝鮮より世界各地への出動に軸足を置いていることがわかる (c)朝日新聞社

 米韓のすきま風とは関係なく、米軍の戦闘部隊は韓国から撤退する──。朝鮮半島の軍事バランスを分析することで、そんな近未来が浮かび上がるという。AERA 2019年9月16日号に掲載された記事を紹介する。
 
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 8月23日に日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了を通告した韓国に対し、米国防総省は「再三の要請が無視された」とし「強い懸念と失望を表明する」との声明を出した。

 日本では「米軍が韓国から撤退して朝鮮半島が北朝鮮主導で統一され、日本はそれと対決する最前線となるのでは」といった説まで出ている。こうした不安の背景になっているのは「在韓米軍が今日でも韓国防衛の主力」という印象だ。だが実は、在韓米軍の規模は韓国軍と比べればごく小さいのだ。

 米国防総省の発表では、昨年9月末の在韓米軍の人員は陸軍1万7200人、空軍8100人など計2万5800人だ。これに対し韓国軍の総人員は62万5千人(英国際戦略研究所発行の『ミリタリー・バランス2019年版』による)。うち陸軍が49万人、空軍が6万5千人、海軍が7万人だ。

 米陸軍の総兵力は47万6200人だから、韓国陸軍は人数でそれを上回っている。在韓米陸軍1万7200人は、韓国陸軍の29分の1にすぎない。

 韓国陸軍は戦車約2500輌、装甲車約2800輌、ヘリコプター約590機を持つ。ITで米陸軍には劣るが、冷戦終了後急速な軍縮を行ってきた西欧諸国の陸軍と比べ、質的にも遜色は無いとみられる。

 米国は朝鮮戦争(1950~53年)では44万人の兵力を投入したが、休戦後大部分は帰国し、冷戦終了の89年には在韓米軍は4万3200人(うち陸軍3万1600人)だった。

 韓国駐留はソ連封じ込めの一環だったが、ソ連は崩壊。中国は70年代から米国の准同盟国となり、中国のF8・戦闘機開発に米国が協力するほど親密だった。そのため、当時の米国では「朝鮮での南北対立はもはや内部問題にすぎない」として、在韓米軍廃止論も出ていた。

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