約6100件の電話やメールが殺到したあいちトリエンナーレ事務局。業務を麻痺させ、スタッフを疲弊させる「電凸」に、どう対処すればよいのか。
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「表現の不自由展・その後」に関して、河村たかし名古屋市長や松井一郎大阪市長は、あいちトリエンナーレの開催事業費に「公金」が充てられている点を問題視した。
戦時性暴力に関する資料館で、これまでに2回爆破予告を受けた「女たちの戦争と平和資料館」(wam、東京都新宿区)の渡辺美奈館長は、こう言う。
「当館への抗議もありますが、むしろ当館パネルの貸し出し先が公共の場を使うときに『税金を使って何をやっているんだ』という抗議が来ることが多い」
2010年に札幌市の民間団体が、市の第三セクターが管轄する場所で「中学生のための『慰安婦』展」パネルを展示した際も、市役所の周りで街宣車が同市の担当部署の係長の個人名を大音量で連呼。会場担当者への罵倒や電話もあり、担当者は疲弊しきったという。
「たとえその時は頑張って乗り切っても、二度とこんなことをしたくないという気持ちにさせるのも、抗議をする側の目的だと思います。だからこそ、短期間でも不自由展を再開する必要があるんです」(渡辺館長)
また、かつて東京都美術館から撤去された、「平和の少女像」のミニチュアのブロンズ像を展示したこともある「原爆の図丸木美術館」(埼玉県東松山市)の岡村幸宣(ゆきのり)学芸員はこう指摘する。
「抗議する側は公金が入っていることを問題にします。ですが、公金が入っているからこそ公益性を担保しなければいけません。市民社会は多様な意見から成立しているので、国の意見しか認めないというのは公益性の観点からおかしいです」
今回の件では特に、電話やファクスによる抗議に対する脆弱性が露呈した。あいちトリエンナーレ実行委員会事務局によると、8月25日時点の問い合わせ件数(抗議以外も含む)は、電話・ファクス・メールなどを合わせて約6100件。実行委員会はもとより、抗議先は協賛企業や団体にまで広がったという。