「『税金使って何をやっているんだ』などの長時間の抗議を聞き続けるのは、それこそ税金の無駄遣い。全体の利益を考えた時に、電話を切って別の公務に携わるのはわれわれの公務だ、とはっきり言えばいい」

 電話の切り方の論理と技術を周知徹底し、記録を残し、業務妨害に当たるケースは被害届を警察に出す。そして、その事実をホームページに出すなどして社会に伝えるのも重要だ。

「そういうことをやっていくとだんだん事実が知れわたるようになる。『愉快犯』でいられるうちはいいが、逮捕事例が続いてくるとそうではなくなってくる。主催者側は本腰だぞ、これで警察が捜査に乗り出したら場合によっては自分のところにもくるぞ、と思ったら自重するようになる。そういったアクションを地道に起こし続けることが大事です」(西尾部長)

 セコムグループ常駐事業本部常駐営業部の巻藤寛(ゆたか)課長も、電話やメール、SNSなどは録音や記録を残しておくべきと言う。

「記録が残っていれば事後に被害申告する際の証拠となります。日本は法治国家なので裁判で有罪を勝ち取るには証拠化しておくことは重要な要件です。そのような体制を整えておけば不当な要求に対して被害を申告することができます」

 事前に妨害が想定される場合は、所轄の警察署長宛てに依頼文書を出しておくのが効果的だと巻藤課長は言う。署内での情報共有がスムーズになり、警察の初動が早くなる。

「事実関係を文書で提出してお願いすれば、主催者側から警察に情報を伝達したという事実が残り、警察の素早い対応が期待できる。とにかく事前に連絡しておくことが大事です」

 ここでは行政での例を元に解説したが、一般企業の業務でも類似したケースはありうる。「お客様の声」なのか「不当要求」なのかを、どう見極めるか。前出の西尾部長はこう言う。

「企業としてのあるべき形を説明しても、何度も電話がかかってくれば、業務妨害です」

(編集部・小柳暁子)

AERA 2019年9月9日号