大好きな偉人たちの話を始めると子どものような笑顔を見せ、話が止まらなくなった。

「ロートレックは絵の才能があったのはもちろん、友達がたくさんいたようですよ。ピカソはなかなか意地悪だったみたいだけれど(笑)」

 オリジナリティー溢れる物語と作品を貫くメッセージがこれ以上にないかたちで結実するラストシーン。日本のマスコミ試写会では珍しく、拍手が起こる回もあった。アニメーションだからできることとはなにか。そう改めて問うと、「すべてが可能になるのがアニメーション」。

「私は(問題意識という名の)小さな種をまくようにしている。そのなかのいくつかが芽を出すようになれば嬉しい」

◎「ディリリとパリの時間旅行」
ニューカレドニアからやってきた少女ディリリが相棒のオレルとともに少女誘拐事件の謎を追う。全国順次公開中。

■もう1本おすすめDVD 「ミッドナイト・イン・パリ」

 過去にタイムスリップし、歴史上の人物に遭遇する──。そんなストーリーを聞いて、まず思い浮かべたのがウディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)。

 作家になることを夢見つつも脚本家となったギル(オーウェン・ウィルソン)は婚約者とその両親とともにパリを訪れる。ひとり夜の街を歩くなか、目の前に現れた車に乗り辿り着いたパーティーで、ギルはアーネスト・ヘミングウェーに出会う。目の前に広がる優美な世界はどうやら1920年代のパリらしい。

 フィッツジェラルド夫妻、ジャン・コクトー、サルバドール・ダリ……。カフェやバーで、ギルはその名が世に知られる前の芸術家たちに出会う。ギルにしか見えない世界。気高く生きる彼らから紡ぎだされる一言一言に、ギルは心躍らせ、憧れを募らせていく。

 ギルが知った世界との対比としてハリウッド映画をやんわりと皮肉るなど、ウディ・アレン節も利いている。芸術家たちの言葉はなぜこんなにも心を掴むのか。過去に思いを馳せることで私たちの毎日はどう変わるのか。

 コメディータッチでありながら、いくつもの問いを投げかける作品だ。

霧が晴れたように視界がクリアになることもある。本作はまさにそういった作品だ。

◎「ミッドナイト・イン・パリ」
発売・販売元:KADOKAWA
価格1000円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年9月2日号