Michel OCELOT/1943年、フランス生まれ。ギニアで幼少期を過ごした後、フランス国立高等装飾美術学校などで装飾美術を学ぶ。代表作にアフリカの村に生まれた少年の冒険を描く「キリクと魔女」(98年)。「ディリリとパリの時間旅行」は「フランス映画祭2019横浜」で、最も観客の支持を集めた「エールフランス観客賞」を受賞(撮影/品田裕美)
Michel OCELOT/1943年、フランス生まれ。ギニアで幼少期を過ごした後、フランス国立高等装飾美術学校などで装飾美術を学ぶ。代表作にアフリカの村に生まれた少年の冒険を描く「キリクと魔女」(98年)。「ディリリとパリの時間旅行」は「フランス映画祭2019横浜」で、最も観客の支持を集めた「エールフランス観客賞」を受賞(撮影/品田裕美)
「ディリリとパリの時間旅行」/ニューカレドニアからやってきた少女ディリリが相棒のオレルとともに少女誘拐事件の謎を追う。全国順次公開中 (c)2018 NORD-OUEST FILMS-STUDIO O-ARTE FRANCE CINEMA-MARS FILMS-WILD BUNCH-MAC GUFF LIGNE-ARTEMIS PRODUCTIONS-SENATOR FILM PRODUKTION
「ディリリとパリの時間旅行」/ニューカレドニアからやってきた少女ディリリが相棒のオレルとともに少女誘拐事件の謎を追う。全国順次公開中 (c)2018 NORD-OUEST FILMS-STUDIO O-ARTE FRANCE CINEMA-MARS FILMS-WILD BUNCH-MAC GUFF LIGNE-ARTEMIS PRODUCTIONS-SENATOR FILM PRODUKTION
「ミッドナイト・イン・パリ」発売・販売元:KADOKAWA、価格1000円+税/DVD発売中
「ミッドナイト・イン・パリ」発売・販売元:KADOKAWA、価格1000円+税/DVD発売中

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

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 一見すると、可愛らしいアニメーション。けれど観続けていると、美しい映像の裏にあるメッセージにパンチを食らったような衝撃を受ける。フランスアニメ界の巨匠、ミッシェル・オスロ監督が「ディリリとパリの時間旅行」で描く世界は、性差別という現代が抱える問題とストレートに結びつく。

 19世紀末から20世紀初頭、ベルエポックと呼ばれた時代のパリ。ニューカレドニアから船でやってきた少女ディリリは配達人のオレルと出会う。その頃、街では少女が一人、また一人と姿を消していた。背後には、女性の社会進出を良く思わない“男性支配団”の存在があるらしい。

 フェミニズム的視点を取り入れたのはなぜか。オスロ監督は言う。

「フェミニストである前に、ヒューマニストであると思っているからです。世界を見渡せば女性が傷つけられているという現実があり、そのなかで私は男性として存在している。自分のなかの正義で考えると、『異を唱えなければ』と思ったんです」

 誘拐された少女たちが“男性支配団”に虐げられるシーンには心が痛み、動揺する。

「観客にちゃんとショックを与えなければ、と考えていました。生易しい表現では、皆すぐに忘れてしまい、意識を変えることはできないから」

 とはいえ決して重苦しい作品ではない。強いメッセージを放ちながらも、躍動感溢れ、ポジティブなエネルギーが渦巻くのもオスロ作品の特徴だ。

 誘拐事件を追うディリリが街中で出会い、言葉を交わすのは歴史に名を刻んだ偉人たち。マリ・キュリー、パブロ・ピカソ、サラ・ベルナール、オーギュスト・ロダン……。劇中では100人を超える歴史上の人物が姿を見せる。実際に残された手紙などを読むなかで、オスロ監督が「素敵だな」と感じた人々だ。

「調べていくなかで、ますます尊敬するようになったのはキュリー夫人です。裕福とは言えない環境のなか、物理学の世界で名を馳せた。そのうえ愛する男性と結婚し、2人の子どもを育て、料理も上手だったみたい。『タルトを上手く焼くコツ』といったメモも残っているんですよ。自分の生き方を大切にしながらノーベル賞を貰っていたなんて」

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