英語の「I’m sorry」には、「ごめんなさい」のほかに「お気の毒ですね」という意味があります。日本人からすると、そのふたつが同じ言葉だなんてちょっと信じられないのですが、確かに「ごめん」と「気の毒に」が両立するケースがあるんです。たとえばレストランでお手洗いの場所を尋ねて、「当店にお手洗いはないんです、アイム・ソーリー」と返されるとき。店員さんは、「この店にお手洗いがないのは申し訳ないけど、いち店員である自分のせいではないし、どうすることもできないな。残念だったね」といった感じでソーリーと言います。「100パーセント『自分が悪い』と確信できない場合、アメリカ人はソーリーと言わない」というのは、「100パーセント『自分のせいではない』と確信できる場合はソーリーと言う」にもなるのです。後者のソーリーを日本語に訳すと「お気の毒ですね」になるのでしょう。

 このように、白黒はっきりしているときにしか「アイム・ソーリー」と言わない人たちの間で暮らしていると、日本人は「ごめん」を言いすぎているのかな、と疑問が湧いてくるんです。グレーゾーンでもひとまず謝ってその場を丸く収めるというやり方は、日本人の知恵なのかもしれません。しかし「ごめん」を多用することによって、心の底から謝りたいときに真意が伝えられないということも起こるような気がしてしまうのです。

 ひとまず子どもには、「ごめん」は謝るときだけ使おうね、と教えることにしました。「『ごめん』は、自分が悪いことをしたな、と思ったときに言おうね。失敗したり、間違えちゃったりしたときには言わなくていいんだよ。お母さんが使いすぎてるからだね、ごめんね」。……あれ? しまった、またごめんって言ってる!(猛反省)

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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