群馬県太田市の母親のメモ。持病のある息子は最近、小遣いから薬代を払い、病院を受診するように。「生きづらさはあるけれど、生きようとしているんだなと」(母親)(撮影/古川雅子)
群馬県太田市の母親のメモ。持病のある息子は最近、小遣いから薬代を払い、病院を受診するように。「生きづらさはあるけれど、生きようとしているんだなと」(母親)(撮影/古川雅子)
親の声(AERA 2019年8月26日号より)
親の声(AERA 2019年8月26日号より)
行政・福祉の相談窓口/家族会・当事者会情報(AERA 2019年8月26日号より)
行政・福祉の相談窓口/家族会・当事者会情報(AERA 2019年8月26日号より)

 中高年の子と高齢の親が社会から孤立する「8050」問題。高齢化する親にも限界が近づき、さまざまな困難が表面化している。当事者たちは何を思うのか。

【心配、期待、不安…家族の引きこもりについて、親の本音は?】

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 年が経つことにより、関係性が徐々に変化するケースもある。群馬県太田市の母親(69)と、10年以上ひきこもる息子(42)の場合もそうだ。

 息子は飲食チェーンに就職、一時は店長も経験したが、深夜までの不規則な業務で体はボロボロになり、29歳で退職を決断。

「当時の心配といえば、ひたすら健康のこと。睡眠障害、無呼吸症候群、高血圧、高血糖、脂肪肝とありとあらゆる病気を併発していました」(母親)

 不採用が続いて再就職もままならない息子が、「親の育て方が悪い!」と言ってきた時期もある。働いていた頃の貯金が尽きると、「もう死にたい」と言い出した。とはいえ、父親(75)は定年退職して家計も厳しい。7年前、母親はこう提案した。

「家でできる内職もある。母ちゃんだけやってみようか?」

 ボールペンを組み立てる根気の要る作業。母の内職を手伝ううち、組み立て作業も納品も、息子が担当するようになった。月3万円の微々たる額だが、稼ぎを得て息子は家計を気にするようになった。自動車保険や携帯代はその収入から払い、「僕の取り分は2万円でいい」と。

 ホームセンターでの買い出し。夕食づくり。家での役割も増えてきた。最近はトマトソース煮込みなど凝ったおかずも作ってくれる。自室にこもらず、家族と食事をする機会も増えた。

「親が年をとってきたから多少手伝わざるをえない、みたいな意識も出てきたと思う」(母親)

「働けない子どものお金を考える会」を主宰する、ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんは、ひきこもる本人が親亡き後も生き延びられる「サバイバル・ライフプラン」を立てることを勧めている。

「3万円でも5万円でも本人に働いてもらって、本人が生きていく保証をしてあげられるのなら、それも一つのゴールになり得る。20年、30年ひきこもった人がいきなり正社員になれたとしても、続くとは考えにくい。親や支援者が、長く続く仕事を共に考えるアプローチも大切かと思います」(畠中さん)

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