そこから日本各地に世界中の観光客が大挙して押し寄せる「オーバーツーリズム(観光過剰)」「観光公害」が顕在化していった。とりわけ、その問題を一身に被(こうむ)ったのが、日本を代表する観光都市、京都だった。

 駅や電車内が観光客ですし詰めになり、タクシー乗り場には長蛇の列。市内は渋滞が常態化し、市民の足がマヒする。町には急ごしらえのホテルや簡易宿所が乱立し、古い町並みが消える。清水寺、銀閣寺など「超」のつく名所はいうまでもなく、穴場だった寺社や町にも人が押し寄せ、うっかり出かけようものなら、疲労困憊(こんぱい)してしまう。

 ただ、こうした現象は世界的に見て特殊なものではない。

 たとえば1992年の五輪開催を機に躍進した観光優等生都市、バルセロナは、その明暗を世界に先駆けて経験している。名所が集中する狭い旧市街に年間3千万人前後の観光客が押し寄せるようになったことで、交通やゴミの収集、地域の安全管理など公共サービスが打撃を受けた。土地代の高騰で、観光業の従事者が住む場所すらなくなるという事態まで起こった。やがて街角に「観光が町を殺す」という不穏なビラが貼られ、「観光客は帰れ」という市民デモが行われるようになった。

 バルセロナに限らない。アムステルダム、ヴェネツィア、フィレンツェ、フィリピンやインドネシアの島。世界の有名な観光地で、負の事例はいまや枚挙にいとまがない。

 なぜ、観光公害が世を席巻するようになったのか。世界共通の要因として、「経済力をつけた新興国からの観光客の増加」「格安航空会社(LCC)の台頭」「SNSとセルフィー(自撮り)による自己顕示の流行」という3点が挙げられる。

 とりわけ大きな現象は、前述した中国人観光客の爆発的な増加だ。中国国家統計局によると、中国人の海外旅行者数は05年には3千万人だったが、16年には1億3千万人へと膨張。国連世界観光機関の「国際観光支出」を見ると、17年の中国の観光消費額は2位のアメリカに2倍の差をつけて断トツの位置を占めている。

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