しかも現在の中国でパスポートを発行されている人は、まだ人口の数%でしかなく、今後は年間1千万人単位で受給者数は増えていくといわれている。その次には、やはり人口が圧倒的に多いインド、インドネシアなども控えている。その意味で「数」の脅威は始まったばかりなのだ。

 ただし「外国人観光客を締め出せばいい」と短絡してはいけない。かつて日本人も海外のブランド店に大挙して出かけ、国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買った後、市民として成長したプロセスがある。

 あまたある観光公害の中でも、最も深刻な問題として認識されるべきは、市街地で起こっている投機の動きだ。

 国土交通省による18年の基準地価では、商業地の地価上昇率トップが北海道倶知安町(くっちゃんちょう)で、2位から4位までを京都市東山区と下京区が占めた。倶知安町はニセコのスキーリゾート地として外資、とりわけ中華系資本による大型ホテルが次々と建設されている土地だ。

●他と差別化できずに、空き部屋をもてあます

 京都で17年から20年までに、新たに供給される客室数は、不動産データベース・CBREの調査によると、既存ストックの1.5倍以上にのぼる。つまり3年という短期間で、それまで積み上げてきた客室数の、実に半数以上が供給される事態になっているのだ。とりわけ前年比で地価が25%以上も上昇した東山区、下京区では、高級ホテルから簡易宿所まで大小の宿泊施設が雨後の筍のごとく出現している。

 京都は、人々が暮らしを紡ぐ場所が有名寺院などの観光名所とともに息づくところが、魅力の源泉となっている。

 しかしそこに投機が生じ、地価・家賃が上がると、もとの住民は家賃や税金が払えなくなり、町を出るしかなくなる。京都市中心部は高齢化率が高い一方、地価の高騰は若者や子育て層の流入を阻むので、やがて空洞化が始まる。京都が長い時間をかけて培ってきたご近所コミュニティーが、そうやって崩壊の危機にさらされていく。

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