そう語るのは、来日して55年の東洋文化研究者、アレックス・カーさん(66)だ。カーさんは四国の秘境、祖谷(いや)(徳島県三好市)で、築300年以上の茅葺(かやぶき)古民家9軒を一棟貸しの宿に転用するプロジェクトに長年携わる。

「始めた当初は、こんな僻地(へきち)には誰も来ないと言われましたが、だからこそ魅力的なのだ、と私は力説しました。1泊3万~4万円ですが、数人の滞在が可能です。この形なら地域にダメージは与えません。フタを開けたら、外国人、日本人を問わず、予約でいっぱい。需要があることを実感しました」(カーさん)

 冒頭で記した祇園のように、日本の町並みは、もろさと古さが景観美の原点になっている。だとしたら、それを固有の「資本」ととらえ、その土地に伝えられた景観や町並みと、それらを暮らしの中で守る人々を第一に考えねばならない。

 日本は交通網の信頼性では世界屈指。ハードインフラの充実とともに、近年は一棟貸しの古民家をはじめ、本棚の奥にベッドがあるカプセルホテルなど、ソフトインフラも多様に進化し、成長の芽はいたるところで芽吹いている。景観や町並みの保全と、経済的な収入がともに上昇カーブを描く制度設計は可能なはずだ。(ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2019年8月5日号