現在、市内の宿泊施設は、すでに供給過剰の局面に達している。簡易宿所や民泊では、ゴミ出しのルールを守らなかったり、深夜早朝に出入りしたりなど、利用者のマナーが問題視され、町に険悪な空気をもたらした。他方で、ブームで参入した業者が、他と差別化できずに、空き部屋をもてあます。

「私の町内にも手軽な宿泊施設が次々とできましたが、最近は電気が消えている日も多く見られます。新しく来られた方は、地域の活動に参加されることが少なく、昔ながらのご近所関係が薄れてきている気がします」

 そう嘆くのは、東山区で生まれ下京区で暮らす井澤一清さん(57)だ。みずからも宿泊業を営む井澤さんは、十数年前に京都の古い町並みを残す目的で、町家の一棟貸しに取り組んだ。

「一時、町家をカフェや宿泊施設に転用する動きが増えましたが、今は再びそれらを壊して、エコノミーホテルなどをつくる動きになっています。住民たちが守ってきた暮らしを、どうしたら健全に持続できるか。それを思わない日はありません」(井澤さん)

●四国の秘境で一棟貸し、僻地だからこそ魅力的

 ただ、観光が引き起こすマイナス面について語る時、気を付けないといけない点がある。それは、観光の持つプラスの面まで否定することだ。

 21世紀以降の日本は人口減少、経済停滞と行き詰まりが著しい。そんな日本にとって「観光」が20世紀の製造業に代わる、産業としての可能性を持つことは確かである。経済が成熟した国にとって、第2次産業から第3次産業への転換は、雇用の面でも、外貨獲得の面でも、必然的な流れだ。

 たとえば19年版の「観光白書」(観光庁)によると、18年のインバウンド客の日本での消費額は4兆5189億円。これは日本の製造業の代表選手、トヨタ自動車の過去最高純利益である2兆4939億円(18年3月期連結)をゆうに超える。

「日本の役人や企業の担当者は、いまだに『数』を成功の指標として、300円の入場料で10万人を呼ぶことを重視しがちですが、そこが問題です。それでは行く方も迎える方も疲弊するだけ。これからは3千円の入場料で1万人を迎えて、双方の気分がよくなる、といった『質』の向上を本気で図らねばなりません」

次のページ