全米平均の1時間16.75ドルという値段は、アメリカ連邦政府が定めている最低時給の2倍以上です。普通の仕事ではペイできません。また、ベビーシッター代が発生する時間の中には当然通勤時間や子どもの送迎時間も含まれるので、単に時給16.75ドル以上を稼げばいいというものでもありません。外で働いたらベビーシッター代のほうが高くついてしまうので、夫婦のどちらかが仕事を辞めて専業主婦/主夫になる、あるいは制約の少ないフリーランスやパートタイム労働者になって正社員の配偶者を支える、という家庭がアメリカは案外多いんです。

 これは個人的な印象なのですが、日本でベビーシッターというと、「バリキャリの共働き家庭が保育園に入れるまでの1~2年、投資と割り切って利用する」という文脈で語られることが多くないですか。そのため「アメリカのお母さんたちは、産後すぐ赤ちゃんをベビーシッターに預けて働きだすんだよね」と言われることも多いのですが、案外そういう層はアメリカでもひと握りだけなんです。

 ベビーシッターは、共働き家庭のためだけのものではない。じゃあ、最低月1でベビーシッターを頼む多数派はなんのために依頼しているのかというと──夫婦のデートです。

 アメリカの人たちは、大人の時間・夫婦の時間を非常に大切にします。高いベビーシッター代を払ってまで、なぜ? と日本人のわたしは疑問でしたが、上の子が生後5カ月くらいの時に初めてベビーシッターさんにお願いし、夫婦だけで食事に出かけた夜、「これは今後も定期的に実行しよう」と決意を固くしました。消えかけてほとんど見えなくなっていた夫への恋愛感情がほんのり輪郭を取り戻したから、といえば聞こえはいいのですが、それ以上に、自我、そして子どもへの深い愛情が戻ってきたからです。

 わたしにとっては「母親以外のアイデンティティーを取り戻すため」「子どもへの愛情を再認識するため」というのが目的ですが、他の人はどう思っているのかなと思ってアメリカ人の男女何人かに聞いてみました。どうしてベビーシッターさんに頼んでまで夫婦のデートに行くの?

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子ども抜きの時間を持つこと