今後、韓国大法院の判決に従い、元徴用工だった原告らが、没収した日本企業の財産を売却した場合、日本は国際司法裁判所に提訴するとしている。安倍首相は元徴用工の個人請求権は、日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決しているので認められない」という立場だ。しかし、戦後補償に詳しい川上詩朗弁護士は、第2次大戦中、新潟に強制連行され、過酷な労働を強いられた中国人の元労働者らが西松建設を提訴。2007年に最高裁で敗訴が確定した裁判を例に、こう説明する。

「この時、最高裁は原告の訴えに対し、裁判所での救済はできないが、個人の損害賠償請求権は消滅していないことから、裁判外で日本企業が賠償金を支払い解決するのは法的に可能とし、実際に西松建設は1億2800万円の和解金を支払うことで合意しました。なぜ、中国に対してできて、韓国に対してできないのか理由がわかりません。韓国は植民地、中国は占領地だという言い訳は通らないでしょう」

 ある政府関係者は国際司法裁判所に提訴したとしても、敗訴するリスクがあることは、政府内の共通認識だと語る。

「本当に個人の請求権が消滅したとは言い切れない。ここで敗訴すれば、同じような裁判が続く可能性がある。だからこそ日本政府は、輸出規制の問題で韓国政府の譲歩を是が非でも引き出したかった。つまり、報復措置というよりも、この一手しか日本にはなかったのです」

(編集部・中原一歩)

AERA 2019年7月29日号