安倍晋三首相 (c)朝日新聞社
安倍晋三首相 (c)朝日新聞社

 対輸出規制をめぐり、熱くなる韓国政府と、突き放すかのような日本政府。危惧すべきは、両国が築き上げた関係が「振り出し」に戻ることだ。

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「まさかこんな深刻な事態に発展するとは思わなかった。参議院選挙が終われば韓日は軟着陸するだろう、という楽観論は甘かった。これから時計の針が一気に21年前、いや、54年前に逆戻りするかもしれない」

 ある韓国政府関係者は、アエラの電話取材に対し、現在の日韓関係の深刻さを指摘した。21年前とは、未来志向をスローガンに掲げた「日韓共同宣言」であり、54年前というのは、日本と韓国が国交正常化を実現した年である。つまり、日本と韓国の両国が積み上げてきた関係が、このままでは「振り出し」に戻りかねないというのだ。

 日本が韓国に対して発動した輸出規制は、日本から韓国へ輸出されている「フッ化水素」など3品が、中国など一部の国に不正に流出しているのではないかという疑惑にもとづいている。これらは大量破壊兵器の製造に転用される恐れがあるからだ。

 かねて日本は韓国に対し、説明を求めてきたが応答はなかった。そこで日本は輸出管理制度を見直した。つまり、韓国が自由貿易の公平性を訴えてWTO(世界貿易機関)に提訴したとしても、韓国が不利であることは否めない。文在寅(ムンジェイン)大統領も、これまでの対応に不備があったことは認めていて、すねに傷を抱える。日本政府が強気の理由はここにある。

 しかし、韓国内では日本の輸出規制は、従軍慰安婦や元徴用工の問題に対する対抗措置と受け止められている。メディアでは連日「経済報復」という言葉が連呼され、これに触発された強硬派の市民が、日本製品の不買運動を展開。今後、韓国社会に潜在的に存在する「嫌日」の感情が表面化する可能性もある。

 この「経済報復」はトランプ大統領の外交の常套手段。日本政府は否定しているが、参議院選挙の党首討論の場において、安倍首相は、今回の韓国に対する措置が、日韓の歴史、そして政治的な問題が背景にあることを示唆。この問題を所管する世耕弘成経済産業大臣も自身のツイッターで「旧朝鮮半島出身労働者問題については、G20までに満足する解決策が示されず、関係省庁で相談した結果、信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない」と投稿するなど、事実上の対抗措置であることは間違いない。

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