わが子が虐待を受けていても、夫と別れられないと話す女性(43)。夫にマインドコントロールされている自覚はあると言い、夫について「私には必要な人です」と繰り返す(撮影/鈴木芳果)
わが子が虐待を受けていても、夫と別れられないと話す女性(43)。夫にマインドコントロールされている自覚はあると言い、夫について「私には必要な人です」と繰り返す(撮影/鈴木芳果)
DVの本質は「力と支配」にあるといわれる。加害者の更生では、「対等・平等」の関係になるまでを目指す。「女性・人権支援センター ステップ」で(撮影/鈴木芳果)
DVの本質は「力と支配」にあるといわれる。加害者の更生では、「対等・平等」の関係になるまでを目指す。「女性・人権支援センター ステップ」で(撮影/鈴木芳果)

 千葉県野田市で起きた女児虐待死事件で、母親に執行猶予判決が出た。虐待する夫に支配され、逆らうことが難しかったと認定された。DVにおけるマインドコントロールとは、何か。

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 相手を洗脳して、思考を乗っ取る。夫から妻への「マインドコントロール」は徐々に浸透していった。

「愛しているから、お前によくなってほしいからと言われると、これだけ私のことを好きになってくれるのはこの人以外にいないと思って。わかっていても離れられないです」

 関東地方に暮らす女性(43)は、同じような言葉を何度も口にした。20年近く会社員の夫(43)から日常的に殴られ、ドメスティックバイオレンス(DV)を受けてきた。中学生の長男と小学生の長女も暴力を振るわれてきたが、夫と別れることはできないと言う。

 女性は20歳の時、友人の友だちだった今の夫と交際を始めた。最初は優しく、前の彼氏のことで落ち込む女性を慰めてくれた。しかし、やがて言葉の暴力、そして身体への暴力が始まった。

 部屋が片づいていない、ものを忘れた、料理の水加減が悪い……。理由はいろいろ。そのたびに夫は、

「お前の考えることはすべて間違っているから、俺の言うことを聞いて俺の言う通りにやればいいんだ。お前は人間としても失格」

 と声を張り上げ、女性が反論すると殴りかかってきた。夫はこうも言った。

「言っても直さないんだったら、痛い思いをしなければわからないだろ」

 殴られ続けても女性はこう思った。

「私はダメな人間だから、この人の言うことを聞かなくちゃ。正してくれるのはこの人だけ。ついていかなきゃ」

 26歳で結婚。やがて長男が、3年後に長女が生まれると、DVの矛先は子どもたちにも向かった。「しつけ」と称した暴力が始まったのだ。おもちゃを片づけていなかったり呼ばれても返事をしなかったりすると、夫は子どもたちに手を上げた。止めに入ると、今度は自分が殴られた。女性はあざが絶えず、長女には自傷行為や噛みつきといった問題行動が見られるように。それでも女性は、こう思い続けた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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