「今は何とか続けられていますが、異動したらどうなるのか、常に不安はあります。お金をもらう以上、成果を出さないといけないのは、十分承知しています。でも、あまり仕事ができなくても、『ここにいていい』という安心感があるのが理想です」

 発達障害を持つ人の割合は数十人に1人にのぼるとされる。「傾向がある」「疑いがある」あるいは「自分もそうかもしれない」と悩む、“グレーゾーン”の人も含めるとさらに多い。

 その大半はクローズ就労をしている。当人に自覚がない場合もあるが、カミングアウトできない主な理由は、職場の理解を得られず退職に追い込まれるのでは、という不安だ。背景には、発達障害の特性や対応について理解せず、偏見もある社会の現状がある。

 ADHDの疑いがあり、2次障害で通院しているグレーゾーンのオムさん(ハンドルネーム)も、クローズ就労を続けている。職場では苦労してきた。特に電話応対が苦手で、商品説明を求められた際、頭が真っ白になり、受話器を握りしめたまま硬直したことがある。異変に気付き、応対を代わった先輩から、こんな言葉が飛んだ。

「新卒じゃないんだから」

 当時、20代半ば。屈辱と罪悪感で体が熱くなった。その後、適応障害の診断を受けた。

「グレーゾーンの人も生きづらさを抱えていることに変わりはありません。同じ悩みを抱える人の居場所づくりが必要だと考えました」(オムさん)

 2017年、オムさんは当事者とグレーゾーンの人の支援団体「OMgray事務局」を立ち上げた。現在はピアサポートを中心にイベントや交流会などを行っている。

 心療内科医で産業医も務める国際医療福祉大学教授の中尾睦宏医師は、職場での発達障害に関する相談には、大別して「2種類がある」と言う。

「ひとつは、発達障害の特性がもとでうまくいかず、苦しんでいる当事者からの相談。すでに診断のあるケース、職場でのトラブルから発覚するケース、本人に自覚がないケースなど、当事者もさまざまです。もうひとつが、発達障害の特性のある人の周囲が参ってしまった、という相談です」

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