職場では…(AERA 2019年6月24日号より)
職場では…(AERA 2019年6月24日号より)

 発達障害を持つ当事者の苦悩もあれば、共に働くことで生じる苦労もある。職場の本音に耳を傾ければ、「共生」に必要な課題も見えてくる。

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 うつむき加減の横顔に苦渋がにじんだ。

「しんどい思いをしながら、職場にしがみついています」

 20代の男性会社員は2年前、ADHDとASDの診断を受けた。職場ではそのことを伏せたまま働く「クローズ就労」を続けている。男性は、これまでの人生をこう振り返った。

「人並みの努力で人並みの成果を得ることができない。この悩みが原因で、怒りやむなしさも感じています。普通になりたかったし、今も普通になりたい。20年以上こんなコンプレックスを抱えて生きてきました」

 小学生の頃から頻繁に学校の連絡事項を聞き逃した。団体行動が苦手で周囲から浮いてしまい、いじめにも遭った。大学生時代、飲食業のアルバイトで注文を取ることもできず、店長から「こんなに覚えの悪いバイトは見たことがない」と呆れられた。だが、当時は深刻に受け止めなかった。短期で辞めても生活に支障はなかったからだ。

 だが就職後、状況が一変する。

「できない理由ばかり考えないで、主体的にどうやったら解決できるか考えて」

 成長や自発性が求められる職場で、常に指示を待つ状態の男性を見かねた上司から、あるとき、こんな指導を受けた。どう解釈すればいいのかわからず、男性はフリーズした。

「自分で解決しなければいけないとはわかっているんですが、業務に向き合う根本的な意義を見いだせず、混乱が続きました」

 興味のある分野しか集中できないのは、ADHDやASDの特性のひとつだ。周囲に迷惑をかけているという罪悪感や劣等感で、男性は強いストレスにさらされた。

「もうボロボロで仕事を辞めたいと思うようになって……。発達障害を疑って受診しました」

 診断の翌年、定型業務を比較的マイペースでこなせる部署に異動し、順応できるようになった。会社が「配慮」したのかはわからない。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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