発達障害を持つ当事者の苦悩もあれば、共に働くことで生じる苦労もある。職場の本音に耳を傾ければ、「共生」に必要な課題も見えてくる。
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うつむき加減の横顔に苦渋がにじんだ。
「しんどい思いをしながら、職場にしがみついています」
20代の男性会社員は2年前、ADHDとASDの診断を受けた。職場ではそのことを伏せたまま働く「クローズ就労」を続けている。男性は、これまでの人生をこう振り返った。
「人並みの努力で人並みの成果を得ることができない。この悩みが原因で、怒りやむなしさも感じています。普通になりたかったし、今も普通になりたい。20年以上こんなコンプレックスを抱えて生きてきました」
小学生の頃から頻繁に学校の連絡事項を聞き逃した。団体行動が苦手で周囲から浮いてしまい、いじめにも遭った。大学生時代、飲食業のアルバイトで注文を取ることもできず、店長から「こんなに覚えの悪いバイトは見たことがない」と呆れられた。だが、当時は深刻に受け止めなかった。短期で辞めても生活に支障はなかったからだ。
だが就職後、状況が一変する。
「できない理由ばかり考えないで、主体的にどうやったら解決できるか考えて」
成長や自発性が求められる職場で、常に指示を待つ状態の男性を見かねた上司から、あるとき、こんな指導を受けた。どう解釈すればいいのかわからず、男性はフリーズした。
「自分で解決しなければいけないとはわかっているんですが、業務に向き合う根本的な意義を見いだせず、混乱が続きました」
興味のある分野しか集中できないのは、ADHDやASDの特性のひとつだ。周囲に迷惑をかけているという罪悪感や劣等感で、男性は強いストレスにさらされた。
「もうボロボロで仕事を辞めたいと思うようになって……。発達障害を疑って受診しました」
診断の翌年、定型業務を比較的マイペースでこなせる部署に異動し、順応できるようになった。会社が「配慮」したのかはわからない。