「自分の子でもない姪っ子を育てるなんて、昔の自分なら考えられなかった設定。でもいまは、それをやらざるを得ない状況になる青年に共感できる」(同)

 今年2月に日本で公開された「ファースト・マン」(18年)にも印象的な父と子のシーンがあった。69年、人類初の月面着陸を果たしたニール・アームストロングを描いた映画だ。

「アームストロングがいよいよ月に行く前夜のシーンが素晴らしかった。幼い息子たちとしっかり向き合って握手を交わす様子に感涙しました。僕自身も最近までは『何も示さなくても、いつか子どもはわかってくれるだろう』と思っていたし、それが美学でもあった。でもそんなものは男の自己満足で子どもには通用しない。子どもにはちゃんと向き合ってあげたほうがいいんだと改めて思わされた」(同)

 父と子どもとの関係は、時代や自身の変化でいかようにも変わる、と石田さん。

「“父親像”として完全なものなんて絶対にないと思うんです。でも、いまは子どもたちの人生に付き合い、ともに生きていくのが父親だという感覚を昔よりも強く持っているし、映画を見ても感じるようになった」

 大正大学准教授で男性学が専門の田中俊之さん(43)も言う。

「映画は時代や現実を映すものであると同時に、『こうあってほしい』という理想を描くものでもある。学べることは多いと思います」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年6月17日号より抜粋