村上春樹を蜷川幸雄が可視化! フランスが震えた「海辺のカフカ」公演ルポ (2/2) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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村上春樹を蜷川幸雄が可視化! フランスが震えた「海辺のカフカ」公演ルポ

斎藤珠里AERA
学生運動で命を落とした恋人を忘れられない佐伯さんを演じた寺島しのぶ。その後、図書館館長としてカフカ少年と遭遇する[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

学生運動で命を落とした恋人を忘れられない佐伯さんを演じた寺島しのぶ。その後、図書館館長としてカフカ少年と遭遇する[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

知的障害を持つが猫と話ができ、迷い猫の捜索で日銭を稼ぐナカタさん役の木場勝己。2012年の初演以来、当たり役として好演している[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

知的障害を持つが猫と話ができ、迷い猫の捜索で日銭を稼ぐナカタさん役の木場勝己。2012年の初演以来、当たり役として好演している[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

[写真:KOS-CREA(国際交流基金提供)]

 というのも、舞台演出が斬新なのだ。大小さまざまなアクリルケースが配され、中にはそれぞれ書斎やバス、図書館、公衆トイレ、公園ベンチなどが並ぶ。開幕と同時に、少女姿の寺島が閉じ込められているケースが舞台の前を横切る──。

 異なるエピソードを映し出すアクリルケースは、独特の時間軸で動かされ、観客に時空を超えた村上ワールドを視覚的に体感させた。

 物語では、15歳の家出少年の田村カフカ(古畑新之)とナカタさんがそれぞれ旅に出る。道中、言葉を話す猫やジョニー・ウォーカー、カーネル・サンダーズなどシュールな登場人物と遭遇し、戦時中の記憶が現実に交錯したり、両者の間に不思議な接点がみえたりしてくる。後半、カフカ少年とナカタさんは運命的につながり、舞台は哀愁とノスタルジーに包まれる。

 書評家ジャン=ピエール・ティボデ氏は、自身のブログ「バラガン」で「同時並行する物語を、中越司の美術と服部基の照明が見事に再現した」と絶賛。「村上が小説に込めた情念を、蜷川も最後となった演出で共有していたに他ならない」と分析した。

『1Q84』をはじめとする村上作品はフランスでも大きな人気を誇る。小説『海辺のカフカ』も、06年にフランス語版が出版され、その年の出版売上ランキングで35位を記録した。

 なぜ村上春樹は、フランスで愛されるのか。推理小説家で、パリ第8大学の哲学および理数論理学のポール・ルビエール教授は、こう分析する。

「村上作品に共通する、現実と夢の世界を行き来する物語がフランスでの人気の理由では」

 フランスは、表向きには移民や他宗教を受け入れ、開かれた国をアピールしている。だが、その結果、失業者の増加やテロ、毎週土曜日に黄色いベストを着て政権へ抗議する「黄色いベスト運動」が昨年11月から続くなど、社会問題は山積している。

「フランス人の内心には、古きよき時代へ思いを馳せ、現実逃避をしたいという傾向があることは否めない」(ルビエール教授)

 村上春樹は、千秋楽公演を前に来仏し、フランスの学生ら5人との交流会に参加。翌日新聞でも報じられた。

「太古の昔、人類は火を囲み、体験を分かち合って危険に立ち向かった。小説家も読み手の心を躍らせ、心配事やおののきから解き放ちたいという語り部役を担っている。私の創作の原点でもあります」(仏ルモンド紙)

 自身も自負するように、村上が描く世界は、フランス人の心の駆け込み寺になっているのかもしれない。(在仏ジャーナリスト・斎藤珠里)

AERA 2019年6月3日号


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