「アートコレクティブと呼ばれる創作活動をしている集団。アーティストやエンジニア、プログラマ、建築家、CGアニメーター、数学者など、専門職を持った約650人の集団が集団的創造によって、作品をつくっている。僕はその代表です」

 2001年、東京大学工学部卒業と同時に、同級生らと「チームラボ」を設立。システム開発と並行して、アート作品の制作も手がけるようになり、「チームラボボーダレス」のベースが生まれた。チームラボが追いかけてきたテーマのひとつが、「境界(ボーダー)」だ。境界を意識したのは、猪子さんがなんと高校生のときだったという。

「テレビに映っている世界は、本当は自分の肉体と連続しているはずなのに、境界の向こうにある別の世界のように感じてしまった。なんでだろうと。それはレンズが持つ視覚的特徴なのかと思い始めて、レンズじゃない別のもので空間を表現する方法を見つけたいと思った。それができたら、人々の世界の見え方にも、境界がなくなるかもしれないと」

「チームラボボーダレス」で作りたかったのは、境界なく連続するひとつの世界。特に都市部にいると、テレビの向こう、スマホの向こうの世界との間には境界があると感じ、その世界が自分と地続きということを忘れがちだ。猪子さんは、境界のない世界を体験することで、現実世界の人々の認識が、どう変わっていくかにも興味があった。

「例えば、どんな食べ物も生命でできていて、各生命はほかの生命との連続性の上にある。でも、スナック菓子を見てさ、それが生命でできているなんて、みんな忘れてしまっているよね」

「チームラボ」が本格的に展覧会を開くようになったのは、11年。現代美術家の村上隆さんが機会をくれて行った、台北の「カイカイキキギャラリー」での個展が皮切りになった。その後、13年にはシンガポールビエンナーレに招待された。

 さらに、モダンアートの名門画廊「ペースギャラリー」(ニューヨーク)で個展を成功させるなど、アーティストとしても日本を代表する存在になりつつある。現在も上海にある巨大な燃料タンクを改造した美術館のオープニング展が開催されているほか、世界中で複数のプロジェクトが動いているという。

「え、30年後? 想像できないな。そうそう、時間というのも連続していて、人間は自分の生きた長さくらいしか認識できない。でも、本当は30億、40億の生命の連続で、今生きている。そんな時間認識の限界も、超えられたらいいな」

(ライター・福光恵)

AERA 2019年5月27日号