100メートルでは最高速度に達するのは60メートル付近で、その後は減速しながらゴールに向かうのが一般的だ。その中盤での加速に持ち味を発揮するのが山県亮太(26)、ケンブリッジ飛鳥(25)、そして桐生だ。

 山県のスムースな加速は、滑空するグライダーを連想させる。鍛えられた体幹が滑らかな走りを生み出している。ケンブリッジは完調ではなく、今年は主だったレースには登場していないが、ツボにはまった時の中間疾走は力強く、ゴールまでの減速幅が小さい。

 桐生は日本記録をマークした時のように爆発的な加速から、力まずにフィニッシュラインまで駆け抜ければ常に日本記録更新のチャンスがある。今後はプレッシャーのかかる舞台での記録更新が望まれる。

 また、200メートルを得意とするサニブラウン、飯塚翔太(27)は後半型の選手だ。最高速に達する地点が遅く、終盤での逆転を得意とし、スリリングなレースを見せる。

 中でも、9秒台に突入したサニブラウンには大きな期待が寄せられている。9秒99の記録を受け、フロリダ大で指導するコーチのマイク・ホロウェイは、こう評価した。

「長い間、才能に頼った走りをしてきたが、ようやく100メートルを走るための技術を使えるようになった」

 それでもスタートをはじめ技術的にはまだまだ伸びしろが大きく、サニブラウン本人もこの記録を通過点としか捉えていないだろう。(スポーツジャーナリスト・生島淳)

AERA 2019年5月27日号より抜粋