大企業にとって2019年の就職戦線は、働き方をめぐる、ある地殻変動に遭遇した最初の年だったに違いない。ある大手銀行の採用責任者(54)はこう打ち明ける。
「面接試験で、いの一番に『御行は副業を認めておられますか?』と質問が飛んだというのです。今まで銀行という業種で副業なんてあり得ないし、何を考えているんだと内心、鼻で笑ってしまいました。私の世代の常識では考えられないからです。しかし、政府が副業を奨励している以上、そういう質問が飛び出しても不思議ではありません。終身雇用を前提とした日本型経営が、本当の意味で終わりを迎えたということでしょう」
企業の「副業解禁」は、昨年来、安倍政権が推し進めてきた「働き方改革」の一環である。18年1月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成。同省がこれまで示してきたモデル就業規則では、副業は「原則禁止」だったが、その扱いを「原則自由」に180度、転換したのだ。
「ソフトバンク」や「ロート製薬」「花王」などすでに副業を解禁していた企業もあったが、18年には「ユニ・チャーム」や銀行として初めて「新生銀行」も、副業を解禁した。
しかし、経団連の調査によると、副業を認めている企業は約22パーセント。経営者は「人材流出」「機密漏洩」「労務管理の複雑化」などのリスクを負えないというのが本音だ。ただ、働き方の多様化、深刻な人材不足などを考えると、将来的には解禁せざるを得ないというのが採用の現場レベルでの共通認識だ。ある食品メーカーの採用担当者(42)はこう断言する。
「副業させたら人材が流出するのか、副業を解禁しないとそもそも人材が集まらないのか。その分水嶺は5年以内に必ずやってくると思います」
こんな例もある。ある情報系ベンチャー企業では近年、社内から副業解禁を求める声が相次いだ。不安になった人事担当者が内々に「将来にわたって社員でいることに不安はあるか?」と社員全員にアンケートを実施したところ、なんと8割が「不安」と回答。この結果を受け、経営者は即日、副業を解禁。通常は「営業時間外」が原則だが、事前の承認を得れば「時短勤務」も可能にした。会社をあげて副業を奨励したところ、社員の経験値が格段に高まり、全体の生産力も上昇。業績も順調にアップしたというのだ。