稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
元号が変わって心機一転なんてことあるわけない。自分が変わらなきゃ何も変わらん(写真:本人提供)
元号が変わって心機一転なんてことあるわけない。自分が変わらなきゃ何も変わらん(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 テレビをやめて何がいいって、いわゆる「ブーム」から普通に距離を置いていられること。ドン・ファンも相撲協会も(古い)知らぬうちに始まり終わっていた。平和である。つまりは浦島太郎である。

 なので、平成が終わることはもちろん知っていたが、世間で「平成最後の」というフレーズがやたらキャッキャと連呼されていることは、年末に実家で見た紅白歌合戦で初めて知った。

 混乱した。

 言うまでもなく、平成が終わるのは明仁天皇が退位されるからである。それ以上でも以下でもない。なので平成を総括できるのは現天皇そのひと以外にはありえない。それを「平成最後の紅白歌合戦です!」とは……?

 あまりに謎なので、今回、平成最後のアフロ画報というものに挑戦してみることにする。

 私は正直、平成が終わることが非常に寂しい。現天皇と皇后が退かれることが寂しいのである。

 実は長い間、天皇制にも天皇という存在についても無関心だった。ところが数年前、皇后の短歌を集めた本を読んで以来、被災地や旧戦地へ訪問された時の記事や、記者会見などのお二人の「お言葉」を欠かさず読むようになった。そして、いつも何か深いところで衝撃を受けた。

 国民の象徴たる天皇とは、今の日本で最も人権を制限された人だと思う。我々が当たり前に享受している言論の自由も行動の自由もない。その中で、お二人は脚光を浴びようが浴びなかろうが、限られた「できること」を静かに、しかし精一杯続けてこられた。それを見ると、いつも自分を振り返らずにはいられなかった。お二人が希求したのは平和である。平和とは何だろう? 相手を思いやること。弱い立場に置かれた人、傷ついた人に心を寄せること。いったいそんな答えを誰が思いつくというのだろう? 

 人はどんな制約の中でもできることがある。熱く生きることができる。お二人にいつも教えられた。そんな時代を生きたことを幸せに思う。

AERA 2019年4月29日-2019年5月6日合併号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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